第8話 賽の河原

「もう……あの馬鹿猫!どこ行ったのよ!」


 オオムネさん達と別れた後、何時まで待っても帰って来ないマタタマを探しに河原に出てきた。帰り際にカンカンさんは、「危ないから送ろうか」と言ってくれたが、「すぐ近くなので大丈夫」と言って断わったんだけど、やっぱりマタタマが居ないと不安がいっぱいで、送ってもらうべきだったと後悔してる私だ。こうしている間に五重四肢さんに出会さない事を祈ろう。


「ほっといて帰ろうかな……マタタマが迷子に成る事は流石に無いだろうし……」


 私は眼前の光景を眺めた。見渡す限り不気味な灰色に染まってるが、水墨画みたいでどこか風情もある。右向こうに見える水車小屋は電気を供給する物だろう。電化製品はほとんど無いが、アイロンには電気を使うと白骨さんが言ってた。左側の河原では小さな子供達が石を積んで遊んでいる。ゲーム機が無いから石積みして遊ぶしかないのかな?

 子供達は白装束だけでなく、普通の服を着た子達も居たが、服を裏返しに着たり、表裏反対だったりと、変な着方をしてる。

 そんな子供達の中に1人、フードパーカー姿の大人がいた。大人と言っても高校生か大学生ぐらいの人だ。引率者なのかな?後は全員小学生以下の子供みたいだけど……。

 よく見るとフードパーカーの人だけ服を逆さまにせず、まともに着ている。しかも最新モデルのスニーカーを履いていた。最近亡くなった人?いや、もしかして私と一緒で、まだ生きてる人かも……。

 私は気になって石積み集団に近づいた。


「お姉ちゃんもするの?」


「今なら鬼が居ないからチャンスだぜ!」


 こちらに気付いた子供達がそばに寄って来て、私の袖を掴んだ。1人2人じゃない。十数人に囲まれた私は右へ左へと引っ張られ、ヤジロベエのように揺らされる。ちょっと、ちょっと服が破れるって!


「お姉ちゃん、見てー!ユウが積んだの!」


「かっけー!お姉ちゃん、このピンクの着物どうしたの?」


「お姉ちゃんの場所ココね」


 どうやら、この子達の石積み大会に強制参加させられそうだ。まあ、いいか。


「これ、早く積んだ方が勝ちなの?何個積めばいい?」


 やるからにはゼッタイ優勝するわ。小学生相手でも容赦しない。


「スピード関係なし!」


「歌を唄いながらパパやママに『ごめんなさい』しないといけないんだよ」


「10個重ねたら、あのお兄さんが舟のチケットをくれるって!」


「へー、そうなんだ……えっ?!今、何て言った!」


「向こう岸に渡る舟のチケットを貰えるんだ。100段積みなら天国行きチケットだぜ」


「うそぉぉぉぉぉッ!!やる!ゼッタイやる!!」


 ま、まさかこんなラッキーイベントが有るなんて。これで船賃の60万円を稼がなくて済むわ。冥界にも神様は居るのね。


「ちょっと待って。君、何歳いくつ?」


 パーカーお兄さんが聞いてきた。フードの中は赤髪のイケメン顔で、育ちが良さそうな感じ。きっとお金持ちなのね。


「15歳です!石積みチャレンジ参加しまーす!」


「ごめん。12歳までなんだ」


 ん?何か神様が天国から地獄に突き落とすような台詞を発せられたような……そうだ!私、四捨五入したら12歳だったわ。


「……じ、実は12歳でーす!」


「本当に?嘘だったら向こうに着いた時に舌を抜かれるよ」


「うっ……15歳です。えーーー何でえ?!ケチッ!子供だけの大会じゃ無いのぉ?」


「いや、実は最近まで年齢制限は15歳以下だったんだけど、この御時世でルールが厳しく成ったんだ。本当にごめん」


「最悪。ゼッタイ最悪」


「一つ積んでは父の為♪二つ積んでは母の為♪――」


 変な歌を唄いながら、周りの子供達はどんどん石の塔を完成させて行く。


「ヤッター!積めたよー!」


「オッケー。じゃあ、向こうに船が停まってるから、この紙を船頭さんに渡すんだ」


 目の前を次々とチャレンジ成功者が嬉しそうに走り去って行く。私が拗ねた顔でそれを眺めていると、お兄さんが笑顔で語り掛けて来た。


「君、ご両親は?」


「現世で健在です。違う……お父さんは入院中です……」


「そうなんだ。じゃあ、君も罪を償わなきゃね」


「罪を償う?」


「ここに居る子供達は罪を償う為に石を積んでるんだ。親より先に死んだ事で、親を悲しませたり、苦しめてしまった罪を償ってるんだよ」


 私はその言葉を聞き、思わずお兄さんを睨めつけながら反論してしまった。


「生きてる方が親を苦しめる場合も有るわッ?!」


「あれ?……もしかして君……」


 しまった!目線を合わせちゃった。

 この人が女王の手下だったら、どうしよう。

 これってゼッタイ迂闊よね?

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