第6話 見えない糸
「服を作るには先ずデザインを考えます。そして、そのデザインに沿った製図が必要に成って来ます。立体裁断ってやり方も有りますが、今回は平面裁断で教えますね」
白骨さんとの勉強会が始まった。
ゼッタイ可愛いの作るぞ。
「いきなり思い通りの製図を素人では作れません。パタンナーとしての知識が必要に成って来ます。だから初めて服を作るには基本の原型をしっかり知ること。フィット感を重視しないので有れば、最初は囲み製図でも良いと思います」
「囲み製図?」
「オーダーメイドの時はお客様の寸法を測り、それに合わせて原型を作って行きます。その人だけのサイズや好みに合わせる為です。これに対し囲み製図は基本情報だけを製図にした物で、それを見本にして原型を作らずに仕立て行くやり方です。玩具とかの設計図をイメージしたら分かりやすいと思うわ。けど、囲み製図からでも調整をすれば寸法を合わせる事も、デザインのアレンジも可能です」
「難しそう……」
「難しく考えなくても良いのよ。家庭科と図工の知識が有れば大丈夫。ツクロちゃんのサイズに合ったセーラー服の囲み製図も有るから簡単よ」
そう言って白骨さんは分厚いノートを開けた。ノートには、前とか後とか書かれた歪な四角形のような図がいくつも描いてあり、呆れるぐらいに数字がいっぱーい。服の図面って複雑なのね。家庭科で手提げ袋とか縫った事有るけど、もっと図面は簡単だったのに。うーん……でも、この通りに写して、切って、縫い繋げれば服が作れるのよね。よし!頑張るぞ!
ノートをめくると色んなタイプのセーラー服の図面が有った。どれにしようかな……色と素材も決めなきゃ……うーん、悩むぅ……。
「楽しそうね」
「えっ?あ、はい。服を選ぶ時って、楽しいですね!」
「ツクロちゃんは、幽霊が何で服を着てると思う?」
「えっ?どういうことです?」
「幽霊って必ず服を着てるでしょ。四谷怪談とか牡丹灯籠。鎧武者の話もよく聞くわね。海外の幽霊もそう。でもこれって、よく考えたらおかしな話だと思わない?」
「どうしてです?」
「だって服は人間とは別の細胞よ。人が死んで幽霊に成るなら、幽霊は裸で無いと変じゃない。鎧姿のままで死んでも鎧自体は死んでないんだから、幽霊が鎧を着た姿で現れるのは、おかしいわよね」
「あっ!そうか!そういえば私もパジャマ着てた。物が幽霊に成るには時間が掛かるんでしょ?パジャマは死んだわけじよ無いのに何でついて来たんだろ?」
「それが人間と服の信頼関係。服は着た時点で、その人と目に見えない魂の糸で結ばれるの。その人の
「身体の一部に?」
「服は身体を守ってくれたり、社会的地位を上げてくれたりして人を助けてくれる。人はそんな服を気付かないうちに信頼し、心を委ねるから服も応えて魂の部分で結ばれるの。服を選ぶのが楽しいのは、自分を高めてくれる新しい体の一部を向かい得れるからよ」
「そうか。着ている時は身体の一部に成るから、幽霊に成ってもついてくるのか。じゃあ、カツラをしたおじさんが冥界に来たら、もうカツラはその人の髪ね」
「面白い発想。そうよ。カツラも信頼関係で結ばれてるわ。でも冥界でも脱着はできるけどね」
「歳を取らないから、おじさんはそれ以上禿げないし、カツラを新しいのに変えなくてもいいわよね。アハハハ……」
「さあ!脱線は終わり!どのタイプの服を作りたいか早く選びなさい。決まったら型紙を作っていくわよ」
「はーい」
「母さん……またあの人来たよ」
水の調達から帰ってきたバンテジが、裏口を通って奥の間に入って来た。なんか渋い顔して来客を告げている。招かざる人かしら?
「誰?お客様?」
「ワンレン、ボディコン」
「オオムネさん?」
そう白骨さんが声を出した時、店の扉が開いた。
「オハー!!白骨さーん、おひさぁー!!」
『カランコロン』の音と共に、体の線がビッシリ浮き出たエチエチワンピースのお姉さんが大声出して入って来た。大きな胸の谷間には派手な羽根付き扇子を挟んでいる。すっごくセクシーなんだけど、太い眉毛のメイクに時代を感じるの。長い髪には服と合わせた水色の三角頭巾をしてるから、ココのお客さんだとは一目で分かったけど。
「いらっしゃいませ、オオムネさん。お久しぶりね。ついこの間有ったばかりの気もするけど」
「冥界だから時間感覚わかんなーい!って、誰?この子?」
「今度うちで働いてもらう事に成ったツクロちゃんよ。よろしくね」
「はじめまして。ツクロです」
「ウイーす」
「えっ?」
「『ウイーす』って言ったら『ウイーす』で返す。これ常識あるよ」
「う、ういーす……」
「声が小さいッ!!」
「う、ういーすッ!!」
「黙れ!静かにしろ」
「???」
「あーん!アタシのギャグ通じなーい!だめだこりゃ!次行ってみよー!チャチャチャチャチャラーラ、チャララララーン♪」
いきなり扇子振りながら踊りだした。
この人ゼッタイ酔ってない?
「羽根が飛ぶから扇子を振り回さないでね。オオムネさん」
「ラジャー!」
「それで何しに来たの?仕立て代を払いに来たの?」
「……バブルの頃はね。アタシもこの冥界中の服をぜーんぶ買えるぐらい、お金持ってたのよ。いや、これマジでぇー」
「まだ払えないのね。それで何しに来たの?」
「くっちゃべりに来ました!!イエーイ!」
「バンテジ相手してあげて」
「やだよ。何回も同じ話を聞かされるだけだし……あっ、そうだ」
3人の視線が私に向いた。
えっ?どういう事?
「ごめんねツクロちゃん。お客様のお相手するのも仕事よ」
「よし、お姉さんが冥界の案内とバブル時代の豪遊生活を聞かせてしんぜよう。レッツラゴー!」
そう言いながらオオムネさんは私の両肩を押してきた。そして有無を言わさず外に連れ出される私。
これってゼッタイ生贄よね?
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