第26話
二年前。
都内某所。
都心、とは呼べないかも知れないが、それなりに中心地に近い、物静かなベッドタウン。
そういう雰囲気の街。
そこにある、少し大きめのマンション。その敷地内を、相良勇輝(さがらゆうき)は満面の笑みで歩いていた、すれ違う人達は、その笑顔を見て自分も微笑んだり、苦笑いを浮かべたりもしていた、子供の笑顔というものは、大人に色々と感情を与えるものだ。
だが、当人はそんな事は気にも止めずに、満面の笑みのまま、うきうきと弾んだ足取りで歩いていた。
今日は……
今日は……
勇輝は、にこにこしながら歩いていた。
今日は……
「父さんが、帰って来る……」
勇輝は、小さい声で呟く。
相良勇輝(さがらゆうき)。
十三歳。
中学一年生。生まれも育ちもこの街。優しい母と、厳しいながらも強い父、二人の間に産まれ、中学生になったのがこの春だ。
成績も運動神経も良くは無い上に、人付き合いが得意では無く、教室では自分の席に座っている。
そんな勇輝の普段の姿を知っている者が、もしも今の姿を見れば、とても同一人物とは思わないだろう。だけど……勇輝にはそんな事はどうでも良かった。
父が……帰ってくる。
勇輝はそれが何よりも嬉しいのだ。
勇輝の父、相良晴彦(さがらはるひこ)。
ジャーナリストとして、あちこちを取材で飛び回っている父は、滅多に帰って来ない。 だからこそ、父が帰って来る日は、勇輝にとっては何よりも嬉しい日なのだ。朝、母からそれを聞かされてから、勇輝はもう一日中浮かれていたのだ。
父が帰る日は、いつも母が腕によりをかけて豪華な料理を出してくれる。それも勇輝にとっては嬉しいが、何よりも家族皆が揃う事が嬉しいのだ。
それに……
勇輝は、小さい頃から父が大好きだった。
優しく、穏やかな性格の父、だけど、自分の仕事には誇りと情熱を持っていた。
もちろん勇輝の事も、自分の妻、つまりは勇輝の母の事もとても大切にしてくれている、取材で何処にいようとも、常に勇輝や母の事を気遣ってくれるし、勇輝がもしも、何か間違った事をすれば、何処にいても聞きつけ、厳しく怒ってくれる、そしてその後で、勇輝の何が間違っているのか、何処が悪いのかをきちんと話してくれる。
そんな父の子とが、勇輝はずっと大好きだった、いつの日にか……
いつの日にか、父の様な人間になりたい。
それが今の勇輝の夢。
否。
それは、『夢』なんかじゃ無い。
目標だ。
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