第22話

 雅志は、黙って。

 黙って、目の前に立つ少年。

 相良勇輝の、顔を見ていた。

「……お前……何を……」

 雅志が、呆然と呟く。

 勇輝。

 否。

 ジャスティスは、何も言わない。

 ただ。

 ただ、微笑みながら雅志の顔を見ているだけだ。

「……まさか……お前……」

 雅志は呟く。

 だが。

 それでもジャスティスは何も言わない。ただ黙って。

 黙って、にこにこと笑っているだけ。

「……っ」

 雅志は、息を呑む。

 そして。

「……『殺し屋ジャスティス』は」

 ジャスティスが、言う。

「私欲の為の殺しは、一切引き受けない」

 雅志は、黙っている。

「『依頼』を受け、それが『正当』であれば、晴らせぬ恨みを被害者に成り代わって晴らす、そういう『殺し屋』です」

 雅志は、黙って。

 黙って、右手に持ったままだった包丁を握りしめる。

「あとは」

 ジャスティスが言う。

「貴方が、『依頼』をするかどうか、それだけです」

 雅志は……

 雅志は、無言で。

 無言で、目の前に立つ少年の笑顔を。

 ただ、見ていた。


「……僕、は……」

 ややあって。

 雅志が、ゆっくりと口を開く。

「……僕は、教師だ」

 雅志は言う。

 ジャスティスは、まだ。

 まだ、笑ったままだ。

「……教師として、そして……大人として、そんな事を……」

 雅志は言う。

「教え子に、『殺人』を依頼するなんて事は、出来ない」

 雅志は、絞り出すように言う。

 だが少年。

 ジャスティスは、まだにこにこと笑ったままだ。

「……だから……」

 雅志は言う。

「そうですね」

 ジャスティスが、にこにこしながら言う。

「その通りです、貴方がしている事は、大きな『罪』です、未成年に殺人を『依頼』しようとしている上に、その後は何も無かったことにして、元の日常に戻ろうとしているんですからね」

 ふふ、と。

 ジャスティスは笑った。

 雅志は、ぎゅっ、と目を閉じる。

「しかしそれでも」

 ジャスティスは言う。

「それでも、貴方には許せない『もの』がある、自分の欲望の為、貴方の娘さんを、恵美ちゃんを見殺しにした、あの真壁をどうしても許せない」

 ジャスティスは言う。

「あの笑顔を、奪った人間を、許せない」

「……っ」

 その言葉に。

 雅志は息を呑む。

 そうだ。

 娘は、もう……

 もう、あの笑顔を……あの日、勇輝と伸也が来てくれたあの日に見せてくれた笑顔を、もう……

 もう、永遠に見せてはくれないのだ。

 だからこそ自分は……真壁を訴えようとしていた、だが結果は……

 残された道は……

 自分が死ぬか。或いは……

 真壁を……

 真壁を……

「あとは、貴方が決める事です」

 ジャスティスは言う。

 雅志はじっと。

 じっと、ジャスティスを見る。

「お前に『殺し』を『依頼』する際に支払う『依頼料』は……」

 雅志は言う。

「教え子に、人を殺させた事、そしてそれを『依頼』したという責任を、一生背負い続ける、という事で良いか?」

 ジャスティスは。

 その言葉に。

 にこにこと、笑っていた。

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