第12話

「つまり……」

 病院内にある喫茶スペース。

 そこの席に座って、勇輝と伸也の二人は、担任に事情を全て説明していた。

「放課後、街で先生を見かけたお前達二人は、先生が何処に行くのか気になって後をつけた」

 担任が言う。

「それで、辿り着いた場所は病院、高坂は私が、ナースとエロい事をしていると言い、相良は誰かの見舞いだと言い、二人は口論になった、と?」

「そういう事です」

 勇輝は頷いた。

「で、結局どっちなんですか?」

 伸也が問いかける。

「だからなあ……」

 担任教師。

 須藤雅志(すどうまさし)は、呆れた様に言う。

「お前らは私が、ナースを相手にエロい事する人間に見えてるのか?」

「それを言っていたのは伸也だけですよ」

 勇輝が口を尖らせて言う。

「……それとも女医さんで?」

 伸也は恐る恐る、という様子で口にした。

「伸也」

 さすがに勇輝はため息と共に言う。

「いい加減にしろよ、お前」

 その言葉に。

 伸也もさすがに息を吐いた。

「つまりは本当に、誰かのお見舞いって事ですか?」

 伸也は問いかける。

「当たり前だろうが、全く……出来れば生徒達には知られたくなかったのに、寄りによって一番の問題児二人に知られるとはな」

「ちょっと」

 勇輝は怒った口調で言う。

「僕の何処が問題児だって言うんですか?」

「そうだぜ先生、勇輝ならともかく俺は全然……」

 伸也も言うが、須藤は軽く息を吐く。

「放課後に、他人のプライバシーを覗いているだけでも十分問題児だ、このバカ者共め」

 須藤は呆れた様に言い、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

「……まあ、もうここまで来られた以上は、いっそ堂々と話した方が良いだろうな」

 そして。

 須藤は二人を見る。

「男子なのが気に入らないけど、あいつも同年代の子でもいた方が、少しは気が紛れるだろうし……」

 ぶつぶつと言いながら、須藤は改めて二人を見た。

「もう全て話してやるよ、二人共ついて来い、おっと」

 そこで須藤は、二人に教室でいつも向けているような目を向けて言う。

「病院の中なんだから、騒ぐんじゃないぞ?」

 ぴしゃりと言う担任に頷いて、勇輝と伸也も席を立った。


 それから数分後。

 三人は、ロビーを通り抜け、患者達が入院している棟へと向かった。

 そこの三階、一番奥の個室へと向かう。

「ここに入院しているのさ」

「一体、誰が入院してるんですか? 先生の知り合いとか?」

「それは……」

 須藤は口ごもる。

「まあ、合えば解るよ」

 言いながら須藤は、こん、こん、と扉をノックする。


『はーい』


 扉越しだからか、ややくぐもった声が聞こえる。

 だがその声は……どうやら自分達とそれほど変わらない年齢の、恐らくは少女とおぼしき声だった。

「入るぞ」

 言いながら須藤が、ゆっくりと扉を開けた。

 勇輝と伸也も、軽く会釈しながら病室に入った。


 病室の中は、それなりの広さがあった。

 きっと高い病室なんだろうな、と勇輝は思った。そして……

 その病室の中央に置かれた、少し大きめのベッド。

 病院のベッドらしく、白いベッドではあったが、これもそれなりの値段の物だ、という事は何となく解った。

 その上に、一人の少女がいた。

 隣に立っている伸也が、バカみたいにぽかん、と口を開けるのが解った。

 だが、あまり女子に興味を持てない勇輝でも、伸也がそうなるのも無理も無い、と思った。

 その少女は、それくらいに可愛かったのだ、くりくりとした大きな目、栗色の腰までの長い髪、少し痩せて、肌の色が白いのは多分、長い事入院しているせいだろう。だがそれが、この少女の美しさをさらに際立たせていた。

 少女は、二人の見知らぬ少年に、やや困惑気味の表情を浮かべていた。

「……あー……」

 須藤が、頭を掻きながら言う。

「娘の恵美(えみ)だ」

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