第12話 幕間
「先生。いますか先生」
「お、さ、じゃなかった今は
「久しぶりというほどは長くも期間空いていませんよ、三日くらいです」
「そっか、まあでも僕は君の倍くらい忙しいし、実質二十四時間勤務だから、猫の手と言わず、人の手も借りたいね」
「まあ、お察ししますよ、忙しさ。そりゃあ、僕は先生が借りた人の手そのものなんですから」
「で、どう、調子は?新しいところでは慣れた?」
「手を貸させてもらっている側と言えど、そんなに無味乾燥に対応されると僕だっていい気はしないですけど。
「新しいところは前のところと違って日常に近くて助かってます」
「そう、そりゃあよかった」
「それだけですか?」
「んー、じゃあ言葉遣い変わってないんだね」
「標準語はどこでも通じますし、時代的にこれでいいですよ
「それだけですか」
「うん、それだけ」
「もうちょっと変わったところあるでしょ」
「いや、シャンプーを変えたことを気付いてほしい女子か。
「もういいだろ?」
「鬱になりました、原因は上司がまともに僕の話を聞いてくれないからです。明日から治療のために入院するので休暇いただきます。労災効きますよね?」
「僕の若いころはこんなことでヘタってたら『家が裕福だからだいぶ甘やかされて生きてきたんだな』と憎まれ口をたたかれたものだよ。まだまだ頑張りたまえ。この休暇届は僕のところで止めておくから」
「パワハラの重ね掛け!?」
「継続は力なりだよ」
「そんな嫌なこと継続しないでください」
「自動更新だよ」
「いや、安保条約じゃないんだから」
「安保条約で思い出したけど、政治をさ・・・・・・」
「いや切り替え早いでですね、何ですか」
「政治を小説で語るのは荷が重いというか、読者に対して著者による偏向報道しているようなものだから危険性があるって避けられがちだけど、読者は作者の奴隷ではないのだから作者の政治に対する考えを必ずしも鵜呑みにするわけじゃないし、『作者本人は嫌いだけどこの作者の書く本は好き』みたいなやつもいるから問題ない気がするんだよね」
「まあ、否定しにくい意見ですね」
「だよね、それに『政治家の汚職』を話のタネとして書かれた小説では登場人物によってそれぞれとらえ方が違っていて完全に真反対の意見のキャラクターがいた場合、どっちが作者の意見を映し出した方かなんて作者にしかわからないのにね」
「主人公にいつでも自分の意見を代弁させるともかぎりませんしね」
「そうそう、そうなったら我孫子武丸先生は今頃ネクロフィリアってことになるし、住野よる先生はカニバリズムになっちゃうよ」
「極端にとらえられたら切りないでしょうね」
「うん」
「言いたいことを言い終わったからって急に冷めないでくださいよ」
「もう眠い」
「僕、この仕事、辞めてもいいんですよ」
「そういわれると困っちゃうなー。元々自分が借りたくて借りた手だし、簡単に人の増やせなければ教育も大変なんだから。
「こんなに雑な対応をしていたって、君に助けられていることには変わりないしね。信頼の裏返しと思ってくれよ」
「似たようなセリフをどこかで聞いたような気がしますね」
「気のせいだよ、ほら君にお腹を見せてあげよう、動物が全幅の信頼を置いている証だよ」
「男の腹を見る趣味はないです。それに先生、酔ってるんですか」
「いや、全く。そもそも僕は酒も煙草もやらないんだ」
「煙草は最近やらない人が多いですけど、お酒は意外ですね、理由とかあるんですか」
「あるねー、この世のほとんどの事には理由がある。こと、僕が酒を飲まない理由は『酒を飲むことで本性が分かり腹を割って話せる』という幻想を打ち砕きたいと言うのが一つかな。酒を飲んでしか本音で話せないのならばそんなものいらないさ」
「なんかかっこいいですね」
「まあ、ただ単に下戸なだけという説もあるらしい」
「さっきの言葉、取り消します」
「都合いいね、まったく」
「「ハハハッ」」
「さて仕事に戻ろう、照間君
「先はまだまだ長いのだから」
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