第8話 


放課後、僕はまた夢を追い求めていた。しかし、夢とは聞いてきた経験上鮮明に覚えているほうが珍しく、長さもまちまち。ノアさんくらいの話はよくあるものだ。見つかった次の夢ホルダー(今思いついた)は夢について「いや、ちょっと下品な話とも取れるんだけどさ・・・・・・」と前置きをし、話し出した。今回は男なので何の気負いもない。

「この学校はバイト禁止なわけだけど、夢の中で俺は何かしらのバイトをやっているわけよ」

「なにをやってるかはわからないんだな」

「そう、だけどバイト先のイケメンの同期がいて俺を連れてそいつの彼女が待っているらしいコンビニに迎えにいくんだ」

「ふんふん」

「で、なぜか俺はみかん坊やって呼ばれててコンビニでその彼女を拾うわけ。滅茶苦茶美人で委縮するんだけど、その同期に『こいつ童貞なんだぜ』っていわれて腹が立った。でもその後にその彼女が『もらったあげようか(笑)』っていうからちょっといい気分になってたな」

「いや、それは浮気になるしダメだろ」

「いやそりゃあ、現実ならそんなこと思わないけど夢だからな」

「そ、それもそうだよな」

「そ、そんでなぜかそれまで運転してた同期じゃなくてその彼女が車を運転しだして、俺も後部座席にいるのに運転席の後ろのヘッドのところにくっついてるハンドル握ってそれでアシストしてんのよ。謎だよな、まず運転免許も持ってないし不安でうろたえちゃう俺を同期がいさめてきてさ。なんだかんだ田舎道を走り始めた」

「あ、田舎だったのね。それは最初から?」

「そう、コンビニも山の中腹にあって正面道路で背面山って感じだから。ドライブしながらその彼女の従姉の話をしたりするんだが、その内容は覚えて無くて、道路を進むうちに高速道路に乗るんだ」

僕は相槌も打たない。

「その高速は田舎の商業施設の駐車場にあるような螺旋状の坂につながっていてそれをどんどん上がっていって最後は水泳の飛び込みの台で空中に投げ出されてユグドラシルとか呼ばれてそうなバカでかい木に引っかかったところで目が覚めたんだよ」

僕は首肯もしない。

「っておい、佐倉、聞いてるか」

「ん?あ、ごめん、聞いてなかった」

本来なら自分で夢の話を聞いておいて途中から聞きそびれるのは大変失礼なことではあるが意図的に無視したわけでも、冗談でもないのだ。

原因は分かっている。

円谷の夢の話の途中で放った一つの言葉に僕の脳は強制的に支配されてしまったからだ。

「いとこ」

僕にも八つ年上の従兄がいた。

そう、いたんだ、いたはずだ。

何故この瞬間まで僕は忘れていたんだろうか。

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