第7話

 昼休みの地獄の様な内容の薄い出来事に若干不満を持った僕は五限の時間に一つの疑問を抱えていた。なぜ僕はこうして夢を探し回っているのだろう、と。少し前にも似たようなことを思ったけれど、それは今行動に理由をつけるならばそう、というだけであり源流というか、この夢探しの旅のスタートを僕自身考えたことがなかった。

記憶をたどってみれば、僕は小学生の頃まで夢というものに何の興味がなかった。それは小学生という生き物が会話ではなく、外での遊戯を主戦場とするものだったからだろう。ご存じの通り、夢とは会話の中でしか存在を確認できない事象であり、どうしても話題がなく、結局聞いた側がスッキリもしなければ、その会話をしていた場がすっかり冷え切ってしまうわけでそもそも会話自体に重要性のない初等教育では聞くことが少なかったように思う。記憶をめくっていくと一つそれらしき出来事を思い出した。小学生の頃、(どういうわけか)おさるのジョージにはまっていた僕は夏休みの自由研究でサルの生態について模造紙にまとめたものを提出しようとしていた。それを面白がった両親(ほとんど母の仕業だが)は『本物を見ないといいものは書けない』と言って家族でのお出かけで動物園へ連れて行ってもらった。ああ見えて現金な母は動物園に行くなら全ての動物を見なければ損と言い、最適なルートどりを完成させていた。その当日、開園時間から入園した僕ら家族は全てのそこにいる動物を見ることができた。そう、できたのである。しかし、これは良いことではなかった。まるでウミガメのスープ問題のような話になってしまう(ついでに動物園なのにウミガメというミスマッチ感もある)が、これにはこんな裏があったのだ。どこの動物園にも、名物というか客寄せパンダ(この使い方は正しいが、正しくないような気もする)はいるわけで、それを見ようとする人でその動物がいるスペースでは長蛇の列ができる。そこの計算が甘かったのだ。それも僕らが言った動物園には人気な動物が何種類もいた。そのせいか、その成果、僕は本来の目的であるサルを横目で少し早足になりながらほぼ通り過ぎるような形で見ることになってしまった。とはいえ、小学六年生であった当時の寄少年はそれに文句を言うほど幼くなかったし、逆に面白いことが起こったな~程度にしか思っていなかった。そんなこんなで園内周遊も終盤に差し掛かり、一人でトイレに行った際、トイレの先にまだ見ていない動物がいるのが見えた。それがサイであったなら、お話としての完成度は高かったものの、そこにはサイに比べれれば一回り小さい豚のような四足歩行の動物がいた。なぜかその動物には他の動物にあったその名前や特徴を教えてくれる看板は無く、一目見たときに目に入る上半身と下半身をとをはっきりさせるような黒と白のコントラストがそれがパンダかとも思わせたがそうではなさそうだった。特に象ほどではないにしろ長さのある鼻やのっぺりとした面持ちがその判断を肯定した。

その動物はある意味自信満々というか、王者の風格というか、そのような雰囲気をたえていながら、どこか気だるげで眠そうにも見えた。その動物に気を取られ、見つめられ固まっていた僕はなんだかこの動物に興味がわいたし、魅了されていた。どれ位の時間がたったかわからないが、次に気が付いた時、僕は自家用車の後部座席で座っていた。窓の外はもう黒色が多く、高速道路のオレンジ色のライトが前席の両親を照らしていた。父と母は今日の行動について話し合っていて、運転をしながら父が母の園内での暴走を少し笑いながら窘めていた。いつもとは違う、まるで恋人のように笑いあう両親を見てうらやましいなと思いながら、また瞼を閉じた。

結局あの動物がバクだったことに気づいたのはその何日か後で、その印象が強く残っていたため僕の自由研究はサルのことではなく、バクや夢についてをまとめた。先生に大変褒められたことを覚えている。

ある意味、あの動物園で見たバグは夢だったようにも考えられるけれど、その真偽を確かめるべく僕は夢を見たいと思うようになり、夢収集を僕は始めたのだった。あの日見たバクは、僕のことをどう思ったのだろうか。

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