第2話
「病院で倒れるなんて運のいい奴だね、君は。
「でも皆驚いていたよ。体に何の異常も見受けられないんだから。
「人の体もまだまだ分からないことかあるんだね。ハハッ」
「倒れたんですし、一応僕患者なんですけど・・・・・・」
「ああ、確かに少しフランクに接しすぎたかもしれないね。申し訳ない」
「いや別に、お兄さんは若そうだし、仕方がないかなとも思いますけど」
「若いってさ、誉め言葉なのかな。
「いや、今回の場合は先生と呼ばれるような威厳は確かに僕にはないし、若いと形容されることは嬉しい。それは間違いない。
「でも、これは万人に言えることじゃない。
「男性は若いと言われることに成長不足というか、見くびられているように感じる場合が多い。はたまた、女性の場合は二十代後半、まあこれは何となくの目安であって根拠なんて皆無なんだけれど、それくらいの年齢になると若いという言葉が褒め言葉へ昇華する。
「年齢は人を変える」
「それが、どうしたんですか」
「そんなに冷たくあしらわないでくれよ、少年。人生先は長いんだから、生き急がないでお兄さんの話をゆっくり聞いていけよ。
「とはいえ、この会話に中身は特にないさ。
「ただの雑談。熟年の夫婦だったり、長い間付き合いのある友達との会話と一緒さ。そんな気の合う存在に『それがどうした』だなんて言わないだろ?
「僕は君に親しみを感じているんだ。
「砕けた言葉遣いだってその一環。悪気はないし、気を悪くさせたなら丁重にお詫びするよ」
「年上の方に謝られても気が引けますし、・・・別に今の言葉遣いのほうが話やすいです」
「なら、よかった。
「いやー、もし言葉遣いの訂正を要求されていたらできないわけではないけど、苦手だし話の流れとかテンポだとかは明白に悪くなるからね。
「でも一回、閑話休題。
「君がなんでこの精神科医の僕のところに居るかは話したっけ?」
「いいえ、全く、全く聞いていません」
「大事なことだから、二回言ったのか」
「そうです、そうです」
「君は割と無口な癖してユーモアのあるやつだな」
「で、なんで僕はここにいるんですか」
「ああ、悪い悪い。それは・・・
「君が倒れた原因が身体に存在しないのならば、やはりそれは精神にあるんじゃないか。
「そういう結論になった。いや、なったらしい」
「らしいって、どういうことですか」
「二元論だよ」
「そうですか」
「いや、ちょっとふざけたんだけど今の説明でわかった?」
「ルソーが提唱したものですよね」
「それは社会契約論」
「あ、じゃあアインシュタインの発表した」
「相対性理論」
「あー、じゃあ、二つの電荷または磁極間にはたらく力は、距離の二条に反比例するし、両方の持つ電気量または磁気量の積に比例するという法則をみつけた」
「ごめん、それは分からない」
「クーロンですよ。ボケは説明した時に命を終えるんですからしっかりしてください」
「君の引き出しには目を見張るものがあるが、ジョークのセンスには疑問が湧いてきたよ」
「で、本当はどういうことですか」
「僕は君が倒れたことも、どのように処置したかも、知らなかった。ただ運ばれてきた患者の様子を看護師さんから聞いて覚醒を待っていただけだから」
「迷惑・・・・・・でしたか?」
「いや全然。これが仕事だし。君が気にするような事柄ではないよ」
「そうですか、よかったです」
「君、案外気にしいだな」
「そうですかね・・・・・・」
「じゃあ、そうだな。
「例えば、学校で自分は関与していない訳で泣いている友達を一瞬でも目に捉えたとしよう。
「君は休み時間で外に遊びに出ようとしていた。
「そんな時、君はどうする?」
「仲のいい友達だったなら、とりあえず隣に座ると思います」
「そうか。やっぱりね、君はいい奴だね」
「誉め言葉として言っているんですか」
「どうしてそう思うんだい。
「いや、そういうことに過敏になるのも君の特性というか、性質なんだろうね」
「そうだと思います。
「僕よく道に迷うんです。鶏じゃないんですけど、三歩歩けば考え事を始めてしまって・・・・・・。流石に会話に集中していればそんな事ないんですけど」
「それなんじゃないか?」
「それって何ですか。何が言いたいんですか」
「君の倒れた原因。
「頭を思考することに振り切ったための、オーバーヒート」
「どうなんでしょう。ちょっと倒れる前の記憶が曖昧なんです」
「今日病院に来たところから思い出してみようよ。そのことを思い出すための僕といっても過言ではない」
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