第9話

寄せて聞いてきた。

鈴木の疑問をぶつけてきた姿勢から、レスリングではなく、やはり柔道

だなと、心の中でつぶやいた。

「いえ。すみません。」

そう言ってもらった名刺をちらりと見た。

「副社長の、鈴木さん?」

「社長は今日は、出張で出社されません。」

「そうですか。」

「どのような、ご用件でしょうか?」

「昨晩、不審車両を峠で見失いまして、見失った辺りにあったのが

こちらの所有の、石切場跡だったもので、あの石切場の中を覗かして

いただきませんか?」

「うちの商品を借り置きしてある、倉庫のことですね。そちらの捜索というと、

敷地内を見回るということでしょうか?。」

「出来れば、建屋内なども見ておきたいと思っています。」

「倉庫方には、すぐにでも連絡を入れておきますので、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

鈴木に、お礼を言って、ビル3階のお店を後にした。

片瀬は石切り場に向かう為、立体駐車場から車を出し、石切り場へ

向かった。

立体駐車場はまだ、片瀬が車を停めていた最上階部分までは利用者は

居なかった。

大体の立体駐車場は低層階から利用者が埋まっていくようである。

石切り場に向かう道は、C地区から駅に向かう対向車は多いかったものの

この時間帯に駅周辺からC地区へ向かう車は少なくスムーズに石切り場に

着く事ができた。

石切り場の入り口には、先ほどの会社からすでに連絡があったのだろう

固く閉じていた入り口の門は、今は、広々と開いている。

門から続く坂道は、300mほどあり両脇の木々は手入れされているとは

お世辞にも言えない。

坂道を登りきると右側に開けた場所があった。

そこにはさらに、門構えを備えた一見、2階建の会社かと思うような

建屋があった。

その門の前に駐車スペースがあり、1台の白い営業車が駐車してあった。

その門には「Ραμανούτζαν」との表記がされており、

この表記も片瀬は何と呼んでいいのか分からずにいた。

片瀬は既に、停めてある車にならってその駐車スペースに車を停車した。

車を降りて、既に開いている門を通り、事務所らしい扉がある左側の方に

向かったが、その時右側のホロ付きの2トントラックが、3台並んでいる方

から声がした。

「刑事さんですか?」

上着は、クリーム色の作業着で、下は紺色のスラックス。

年齢は、大凡、50代半ば。

頭頂部は、薄くなっているが、側頭部にはまだ髪がしっかり残っている。

しかし、寝ぐせを取ってくる暇がなかったようだ。 

後頭部あたりに寝癖が、跳ねている。

この近くに住んでいるのか、副社長の鈴木に言われて、慌てて

出勤した様子だった。

「恐れ入ります。朝、早くに。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る