それにつけても××は嫌だよ という話

もう遠い昔に国際系の学部に通っていたのでこういう情勢に陥ると神経質になってしまうのですが、感覚的にはやはり戦争というのが嫌いです。悪いことは言わないのでこういうお話が嫌いな人は大人しくおうちに帰って寝てください。


自分の中での戦争に関する記憶の最も古いものは、母と祖母の罵り合い、言葉の銃撃戦、つまりは嫁姑戦争と呼ばれるものの流れ弾を頻繁に受けたことですが、ここは一旦飛ばしましょう。


最も古い記憶は小学生のときに教室で見た『火垂るの墓』の鑑賞体験でした。B29のブンブン音や焼夷弾の投下音、その後の母親の包帯ぐるぐる巻き姿を見て教室を飛び出して耳を塞ぎ、泣き出してしまったのがそれです。「B29なんか来ないよ、大丈夫だよ」と慰めてくれる級友に「だって怖いんだもん」と頑なに教室に戻ろうとしなかった思い出があります。同時上映にトトロがどうとかおばさんの性格が悪いとか清太はプライドを捨てろとか原作は作者の実体験とか考察が捗る作品ではありますが、自分にとってあの作品のすべてはB29のブンブン音、焼夷弾の投下音、そして母親が包帯でぐるぐる巻きになったあの姿、なのです。


それから数年以上経った後にはじまったのが、いわゆる9.11から続くイラク戦争開戦のニュースなのですが、これは昼のNHKニュースで知りました。当時から大量破壊兵器が云々の話は知っていましたが、この煙に巻く表現がなんだかなあと個人的にはもやもやしていました。おそらくこの経験がのちの卒論に生かされています。


そこからしばらくは地元紙の国際欄を見て情勢を仕入れていました。そんな折に見つけたのが『風、囀り、ワーゲンバス-Wind, Warble, with Wagen-』https://kakuyomu.jp/works/1177354054890356138 でも言及されている「チェチェン紛争のさなかを平和行進して指を失った僧侶」のコラムです。読売新聞オンラインにアーカイブがあったのですが最近探したら消えてました。紙面から切りとったそのコラムを自室の壁に貼るくらい好きな記事でした。


それから大学は冒頭で書いたように国際系の学部がある大学に進学しました。国際法に政治問題、外交問題、環境問題、難民、貧困、紛争、文化など、いろいろなことを学んだのですが、学ぶなかで、考えれば考えるほど世の中のわからないことがどんどん増えていくことがわかりました。自分より絶対に賢い大勢の人たちが問題解決の手段として選ぶのが人や物や文化を徹底的に破壊して白旗を上げさせる戦争である事実に暗澹たる気持ちになりました。


そういうわけで当初卒論はアフリカのとある国の分離独立とその後に続く民族紛争がテーマでした。とはいえ国内にいながらアフリカの諸国の内情を調査するにはかなりの無理があり、泣く泣くテーマを変えざるを得なくなりました。そうして国内に目を向けた上で考えたのがインターネットなどを通じた情報統制やプロパガンダ、いわゆる言論空間の変容です。


詳しくは控えますが、ちょうどおあつらえ向きとも言える事態が生じていた中で必然的に「現場」が生まれ、卒論執筆のかたわら足しげく通いつめていました。正直に言ってしまうと、その「現場」でさえも自分はとても怖かったというのがあります。文字どおり半べそをかきそうになりながら早足で歩いて「自分はここにいていい人間ではない」と感じながらも、喧騒に紛れて「現場」の様子を記録に収めました。そこには人々に共感はしつつも同情にはなれない自分がいました。


自分には他者に訴えるほどのアグレッシブな主張なんて持ち合わせていないし、張り上げる声もありません。なにより、むき出しにできるほど強かな感情もない。ただやめろというだけです。だから戦争を選んで仕掛ける側の論理も自分にはわかりません。この間にも大小さまざまな紛争や戦争が起こるたび、世界はそれに気にかけたりほとんど関心を向けなかったりしています。


大学を卒業してからも個人的にそうしたことを学ぶようにしてきましたが、事態はつねに流動的です。どんなに本を読んでいようと、どんな専門家でさえも、いま現在そこに身を投じている人でさえも、確定的なことはなにも言えないのが現実の不確実性です。


ここに書いたとおり、自分は戦争を学ぶ前から戦争が経験的に嫌でしたし、学んでからもやっぱり戦争が嫌いです。もしかしたらここに書いていることも、だれかにとっては「攻撃」に見えてしまうことも考えました。けれど安心してください。


幸いながら、これを書く者も読む者も、軍隊を動かす権限を持っているわけでも、核兵器を相手に向けてボタンを押せるわけでもなく、事の次第によってはただただ無意味にその犠牲になるだけの弱い人間ですから。もし戦えと言われたら、自分は逃げます。命を第一に隣国へ避難した100万人あまりの人のように逃げます。


戦争とはそういうものなので、やっぱり自分は戦争が嫌いです。

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