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「要は変わってるよ。私のこと引き取ったのだって相当変わってる。自分もまだ18だったのにさ、11歳の私を引き取って、ね。」
そうでしょ、と、梓ちゃんは首を傾げて要さんを見やる。
要さんは健全な顔で微笑み、そう? と肩をすくめた。
俺は黙っていた。割り込める隙間がないくらい、二人は親密そうだった。端から見たら多分、この二人は歳の離れた恋人同士に見えるはずだ。
「要のいかれてるとこは……なんだろ。改めて考えると難しいね。」
「俺は案外まともなんだよ。」
「それは違う。」
「だって、出てこないんでしょエピソード。」
「エピソードとかじゃなくて、全体的に要はおかしい。高校までは火星で育ちました、とか言われても驚かない。」
「まじで? それ結構じゃない?」
冷たいミルクティを飲み干した梓ちゃんは、一番変わってるのは私を引き取ったとこ、と結論付けた。そして俺の方に顔を向け、絶妙に大人っぽさと無邪気さが混じったいたずらな笑みを浮かべた。
「私、両親事故で死んだの。生まれたばっかのときに。それで親戚盥回しになってたんだけど、要が引き取ってくれた。それから一緒に暮らしてる。それだけでも大分変ってるでしょ、このひと。」
肯定も否定もしにくい話だった。
俺は曖昧に頷き、紅茶のグラスに浮かぶレモンをストローでつついた。
それをみて、梓ちゃんは眉をちょっと上げて肩も軽く持ち上げた。
大人びた仕草だった。俺みたいな曖昧な反応には慣れていて、仕方ないわね、と言うような。それは随時優しい仕草にも思われた。煮えきらない態度しか取れなかった俺には、特に。
「じゃあ、私、塾だから。ごめんなさい、あんまりいかれたエピソード出てこなくて。」
そう言い残して、梓ちゃんは疾風みたいにプリーツスカートの残像を残して店から駆け出して行った。
「ごめん、バタバタしてて。」
眩しそうに梓ちゃんの背中を見送ってから、要さんは申し訳なさそうに俺を見て目を細めた。
「俺のこと心配してくれてるんだ、あれでも。だから、人に会うって言ったら、私も行くって聞かなくて。」
「心配?」
「ほら、俺って手錠かけられたりとかしがちでしょ。」
両手首をくっつけて手錠をかけられるジェスチャーまでしながら、要さんは冗談として言ったんだろうけど、俺は笑えなかった。確かに要さんみたいな人が唯一の身内だったら、俺だって一人で外に出すのは怖い。
手錠どころじゃすまないことに、平気な顔で巻き込まれていきそうで。
いかれたひと、と、俺はコーヒーを美味しそうに飲む要さんを横目でじっと見つめてしまう。
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