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俺もなにかお返しにしないといけない気がして、舐めましょうか、と言ってみると、要さんは苦笑して首を振った。
長めに伸ばされた黒髪が頬や項をさらさらと伝うさまに、女性的な色気があった。
「男としたことないんでしょ。無理しなくていいから。」
多分、無理じゃなかった。この部屋の中でなら、このぼうっとかすむような思考の中でなら、男のそれに口をつけることはできたと思う。
それを伝えると、要さんは親戚の子どもにするみたいに頭を軽く撫でてくれた。
「いい傾向だね、不真面目になってる。」
「そう、ですか?」
「うん。真面目に生きてたら、のんけのきみが男にフェラしようかなんて言い出すわけないもんね。」
分かったような、分からないような感じだった。俺は、真面目にフェラチオしようとしていた。してもらった分だけ、お返しに。
「俺、真面目にフェラチオしようとしてるんですけど。」
そう言うと、要さんはさも可笑しそうに笑った。
「面白いね、真面目にフェラチオって。響きがもうウケる。」
一通り笑った後、要さんは俺にシャワーを浴びに行かせた。多分、その間に自分で半勃起くらいしていたそれを処理したんだと思う。
真面目に、申し訳ない気がした。
シャワーを浴びて、服を着直して、さあ出ようか、と要さんは俺の肘を軽く引いた。
「そろそろあずちゃんが帰って来るし。」
「あずちゃん?」
「うん。梓ちゃんって、俺が預かってる子。今日は塾の日だったんだよね。ねえ、夏来くんって塾行ってた? 土曜日も勉強させるなんて、ちょっとかわいそうな気がするんだけど。」
急に日常的というか社会的というか、とにかくさっきまでの行為とは温度も質感も全然違う話をされて、咄嗟に頭がついて行かなかった。
この人にとっては、男との性交は、日常と地続きの行為なのだなと感じさせられた。
それでも俺は、どうにか彼のペースについて行こうと頭を働かせた。
「幾つなんですか、梓ちゃん。」
「高校2年。大学受験に備えて行きたいって、自分で言いだしたんだけどね。」
「だったら、可哀想じゃないと思いますよ。俺も高校生のときは土曜日塾でした。」
そっかー、と、要さんは何度も頷いた。そして、出よう、と俺を促してホテルを出た。
「ごめんね、なんか急かして。わざわざ俺の最寄まで来てもらったし、誘ったのも俺なのに。」
俺を改札まで送ってくれた要さんは、やっぱり部屋の外では別になまめかしくもなければ女性的でもない、普通にきれい系の男の人だった。
「いや、そもそも俺が呼び出したんだし。ありがとうございました。」
要さんのその変化について行けないまま、俺はぺこりと頭を下げた。そして、改札を抜けて駅の構内に入る。
そこで背後を振り返ると、要さんは人ごみに紛れてもう見えなくなっていた。
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