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きみは面白いね、と、要さんは木製の丸テーブル越しに俺の顔を覗き込んだ。
「急に連絡きたからなにかと思ったら、それを俺に訊きたかったんでしょう、どうしても。」
「はい。」
「真面目すぎるよ、多分ね。」
「俺が?」
「うん。普通ね、そんなことは考えないんだと思うよ。」
普通は、そんなことは考えない。
俺は頭の中でその台詞を繰り返した。
全く信じられない気もしたし、それがまぎれもない事実のような気もした。どちらにしろ、俺は考えてしまったし、考えてしまった以上は不安で不安で仕方がないのだ。俺は狂っているのではないかと。
「考えなくても平気なんですか?」
「平気って?」
「……不安になったり、しないんですか。」
「不安?」
「……俺だけいかれてるんじゃないかって。」
「真面目だね、きみは。」
今度は断定口調で言った要さんは、コーヒーカップの中身をすいと飲み干した。俺はコーヒーは好きではないから飲まないのだけれど、要さんのその動作を見ていると、コーヒーがとても美味しそうに見えてくるのが不思議だった。
「俺と寝てみる?」
「はい?」
「不純異性交遊は……同性交友か。とにかく、不真面目になるには最適だと思うよ。相手の目星さえついていれば、手軽だし、時間もかからない。」
思ってもみない提案すぎて、頭の中が一気にとっ散らかった。
「でもあなた、兄貴の……。」
「なんでもないよ。俺は実秋の、なんでもない。」
平然とした口調だった。反論の余地どころか、疑う余地すらなくすみたいに、妙な説得力があった。兄貴どころか、この世の中に生きている人たちみんな、この人にとってはなんでもないのかもしれない、とまで思った。
「俺、男の人は……、」
「試したことは?」
「ないです。」
「じゃあ、分からないじゃない。」
また、疑う余地すら奪う断定。俺はなぜだか、この人を疑えない。
兄貴もそうなのだろうか、と思った。ゴムを買っている間に逃げられても、なんでもないと断言されても、それでも。
「確かに、分からないかもしれない。」
一文字一文字確かめるように俺が言うと、要さんはなんだか楽しそうに笑った。
「きみは面白いから、きみとのセックスも多分面白いと思う。それできみがちょっとでも不真面目になれたら、一石二鳥だね。」
それから俺は、本当に要さんとセックスをした。コーヒーハウスを出て、駅の裏手に回ってすぐ目に入ったいかにもラブホテルといったピンク色の外壁のラブホテルの中で。
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