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家の外は、なにもかもを白く染めるような晩春の日差しに満たされていた。
ふう、と軽く息をついた兄貴の本命は、おとなしく俺の後をついて来た。背丈は俺より頭半分低くて、体つきはだいぶ細い。それはちょうど、今から3年くらい前までの俺みたいに。兄貴が強姦し、その後も何度か関係を強要してきた頃の、俺みたいに。
「いい天気だね。」
兄貴の本命は、真っ青に澄んだ空を見上げて太平楽の顔をしていた。ついさっきまで、他人の家のベッドに手錠で繋がれていたくせに。
「兄貴、どこ行ったんですか。」
「ゴム買いに行ったよ。俺が生じゃやんないって言ったから。」
「……へぇ。」
「訊かないの? 要さんは俺の兄貴のなんなんですか、とか。」
「別に……。」
訊かなくても分かっている。この人は兄貴の本命だ。
「夏来くんはクールだね。」
いや、そんなことないですよ。お宅らの下半身事情が熱すぎるだけで。
頭の中で行ったつもりが、普通に言葉に出ていた。俺は時々こういうことをやらかすし、その度に友人知人をなくしている。
はっとして半歩後ろの要さんを振り返ると、彼は気を悪くしたふうもなくけらけらと笑った。
「たしかにそうだね、ごめん、びっくりしたでしょ。」
要さんが平然としていることに、なぜだか安堵している自分がいた。もう二度と会うことはないであろう、兄貴の男相手に。
「いや……。」
正直、そこまでびっくりはしなかった。さすがに手錠ははじめて見たけど、兄貴が男とやれることは身を持って知っていたし、兄貴の本命が男だということも薄々察していた。
「いいね、いろいろ悟ってる感じが。」
笑い続ける要さんは、陽の光の下で見れば、そんなになまめかしいわけでもなかった。普通の、線が細くて色が白い、きれいな感じの男の人だった。
「悟ってるっていうか、別に……。」
「言いたいことあったら言ってよ、さっきみたいに。」
「いちいち兄貴の下半身事情で驚いてたら、身がもたないんで。」
「そっかそっか。」
要さんは面白がるように笑みを深め、俺の隣に並んだ。
「昔から、実秋は女癖悪いのか。」
「悪いっていうか、手当たり次第っていうか。」
言ってしまってから、これも失言だったかとびくっとしたが、要さんはやはり平然と微笑んでいた。
「男癖も?」
「いや、男の人ははじめて見ましたけど。」
「そっか。はじめましてだな。」
はじめましてで、もう二度と会いたくない。
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