第9話 好きな妹との登校なのだが…距離感が…
「ねえ……は、恥ずかしいんだけど……」
妹のか細い声。
今にも消えてしまいそうな口調だった。
月曜日の朝。玲と一緒に玄関にいる悠は、積極的に妹の手を掴もうとする。
が、妹から睨まれてしまう。
「ちょっと、だから、なんで触ってくるのよッ」
玲から発生られる強気な言葉。
「落ち着けって、玲」
「だって……だって……」
妹は自身の両指を絡ませながら、恥ずかしそうに俯きがちになる。
「玲の日記に書いてあったことだしさ。それに、昨日やるって言ってたじゃん」
「そうだけど……は、恥ずかしいのッ、バカッ」
「いや、そういわれてもさ。早く手を繋いでもらわないと、学校に行けないっていうかさ」
「べ、別に……手を繋がなくてもいけるし」
玲は顔を合わせてはくれなかった。
「繋がなくてもいいのか?」
「え、ええ……」
妹は頬を赤らめ、動揺している。
聞かなくても、雰囲気的に察せられた。
「私、行くし」
玲は玄関の扉の取っ手を触り、開けようとする。
妹は振り返ることなく、家を後にしていったのだ。
なんか、繋げなかったな。
じゃあ、俺もそろそろ行くか。
悠も後を追うように外へ出ると、玄関に鍵を閉めた。
「ちょっと待てって」
悠は軽く走り、すでに道を歩いている玲の隣まで向かう。
道では数人ほど、学校や会社に行く人とすれ違った。
周りにいる人らは、悠と玲が兄妹であることに気づいている様子はない。
多分、一緒に歩いて学校に通ったとしても問題はないだろう。
「俺を置いてくなって」
「別に……いいじゃない。私、一緒に行きたいわけじゃないし……」
妹はぶっきら棒で、つれない発言ばかりする。
頬は軽く染まっているのが分かり、今のセリフは本音ではないということがわかった。
昨日より緩やかな性格にはなってくれたが、どこかまだ心を開いてはくれなさそうだ。
「今からでもいいからさ。手を繋ごうよ」
悠は未隣にいる玲の手に触れようとする。
「……嫌だし」
「なんで? お兄ちゃんと一緒に繋ぎたいって」
「ば、バカ、アホー、なんでそういうこと外で言うのよー、もうー……」
顔を真っ赤に染める妹。
「俺は玲と手を繋ぎたいんだけどなあ」
「私は……い、嫌だけど、ね」
「そういわないでさ」
隣を歩く悠は、玲の肌白い手を勝手に掴み軽く握った。
「ば、ば、バカッ、なんで、触ってんの? 変態、痴漢……」
「そんな事、大きな声で言うなって」
「信じらんない、なんで、そ、そういうことしてくるのかなあ……」
頬は赤く染まりきっているものの、嫌がっているようには思えなかった。
むしろ、嬉しがっている時の、声のトーンである。
それに、繋いである手を振り払おうとする仕草さえも見せなかったのだ。
幸せであると感じているに違いない。
「あんたは、これでいいの?」
「いいのっていうか、いいから、こうして手を繋いでるんじゃん」
「……」
妹は比較的おとなしくなった。
先ほどまで感じられた強気な姿勢はなくなり、より一層、女の子らしくなる。
「あんたはさ……」
「……なに?」
「兄妹同士で、その、手を繋いで恥ずかしくないの? 家の中からまだしも……公衆の面前で繋ぐとか」
「俺も、それは多少なりとも。恥ずかしいけどな」
「普通、そうだよね」
玲が握る手の力が強まった気がする。
「ねえ、あんたはさ。本当に……私の日記に書かれていることを実行するつもり?」
「今のところはそのつもりだけど?」
「私……嫌なんだけど」
「そんな感じはしないけど?」
悠は繋いでいない左手で、隣を一緒に歩いている妹の頬を軽く突いた。
「ひゃあッん」
玲は突然の行為に、実に女の子らしい声を出す。
妹は顔をさらに真っ赤に紅葉させ、悠の方を見るなり、睨んでくる。
「もうッ、は、恥ずかしいんだけど。なんで、なんで、外で……あんな変な声……」
「俺は嬉しかったけどな」
「それは見てる側だからでしょ、もうー……んんッ」
玲は繋いでいる手を離し、悠から距離をとった。
「どうした?」
「だって、その……あんたと一緒にいると、また変なことになってしまいそうだし。一人で行くから」
「おい、ちょっと待てよ」
早歩きで学校へと向かっていく妹を、悠は同じく早歩きで追いかけた。
身長的にも、歩く速度的にも、悠の方が勝っている。ゆえに追いつくことは容易い事だった。
「そんなに照れるなって」
「だからー、そういうところが……嫌なの……す、好きだけど」
「なんだよ、だったら、いいんじゃん」
「んん、そういうことを直接言わないでよ……」
玲はまた小声になっていく。
「じゃあ、今日はさ。手を繋がないで、学校に行くか?」
「な、なんで、繋ぐのが前提になってるのよ……べ、別にいいけど」
「本当は繋ぎたいんでしょ?」
悠は少しだけからかうように言う。
「ま、まあ。そうよ。だから、一緒に通学することになったじゃん……」
「繋ぐ?」
「いや」
「素直じゃないなあ」
「今日は繋がないってこと。次からだから……。次は普通に、あんたと……その、手を繋いで学校に行くし」
妹は勇気を出し、想いを口にしていた。
「じゃあ、次からな」
「う、うん……」
玲は軽く頷く程度だった。
「じゃあ、行くから」
「って、勝手に行くなって」
悠は、振り向くことなく歩き出した妹を追いかけるのだった。
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