第4話 そ、そんな事されたら…好きな感情を抑えられなくなるじゃない…

 昨日、血の繋がった妹――玲と一緒に喫茶店に行ってきた。

 なかなか、楽しいひと時であり、もう一度行きたいと思ってしまう。

 そんな思いを抱き、悠は朝を迎える。


 階段を下がり、リビングへ向かうが妹の姿はない。

 いつもなら食事してたり、キッチン周辺で掃除をしてたりと、色々なことをしてるはず。だが、そういったこともなかった。


 どうしたんだろうか?

 疑問を抱きつつ、リビングのテーブルへ向かう。

 そこには丁寧に朝食が準備されていた。


 朝食は作ってあるということは、朝は起きてきたんだな。

 どんな思いであれ、作ってくれたことに対して嬉しさが込みあがってきた。

 でも、妹ばかりにさせているのもよくない。

 少しは自分からも何かをしてあげた方がいいだろう。

 一先ず朝食を口にしてから考えることにした。


 食べ終えると、キッチン周辺の掃除に取り掛かる。

 辺りが綺麗に片付くと、気分がいい。

 これで、少しは玲も俺に関心を持ってくれるだろうな。


「……」


 玲……一階に降りてこないな。

 本当に、何かあったのだろうか?

 不思議に思い、妹の部屋に向かうことにした。


 階段を上り終え、部屋の前に立つなり、扉をノックしようとする。

 三回ほど、軽く叩く。

 が、特に反応が返ってくることはなかった。


 具合でも悪いのか?

 と、思いつつ、扉をもう一度ノックした。


「叩かないでよ……」


 室内から、囁くように小さい声が聞こえる。


「え? どうしたの?」

「だから……ノックしないでって、言ってんのッ」

「ごめん。でも、今日、ずっと引きこもってるつもり? 体は大丈夫なのか?」


 悠は扉越しに、部屋の中にいる玲と会話することにした。


「大丈夫だし。あんたに気にされなくても」

「でもさ、玲がいつまでも引きこもってると不安なんだよ」

「なんでよ」


 ぶっきら棒な声が返ってくる。


「だって、いっつも部屋の外で何かしてるじゃん。だからさ、玲が部屋から出てこないと、何かあったんじゃないかって」

「別に気にしなくてもいいから」

「良くないだろ。俺は玲の彼氏として、心配してるんだ」

「だ、だから、そんな恥ずかしい事、口にしないでよ……」


 玲が気まずそうに返答してくる。


「本当に大丈夫?」

「大丈夫だって……」

「大丈夫って、そんなこと言う時って、絶対に悩んでるだろ」

「んッ……い、いいから……話しかけてこないで」

「そんなわけにはいかないって」


 いつもと雰囲気が違うような気がする。

 だからこそ、余計に気になってしまい、心が痛むのだ。

 妹に何事もなければいいのだが……。


「もしかしてさ、何かで悩んでるのか?」

「悩んでるとか、あんたのせいでしょ、もうー」

「お、俺⁉」

「そうよ……だって、あんたと一緒にいると……あんたの顔を見ると……なんか……」

「なに? 聞こえないんだけど」

「う、うっさい、いいから、どっかに行って」

「そういうわけにはいかないよ。玲は俺にとって妹であり彼女なんだ。相談には乗るからさ」

「……」


 玲からの反応が薄くなった。


「私……私ね」


 ようやく声が聞こえる。小さく、どこか悲し気な話し方。


「だって、私……あんたと一緒にいると……い、意識してしまうの……」

「意識?」

「だからッ、お兄ちゃんのことが好きだから、恋愛的に意識してしまうから関わりたくないのッ、それくらい察してよ」

「そういうことなのか」

「そうよ……もしかして、気づかなかったわけ……?」

「うん」

「バカ、お兄ちゃんのアホ……」


 突然の暴言が飛んでくる。


「え? ちょっと待って。今、俺のこと、お兄ちゃんって言わなかったか?」

「はッ……い、言ってないし」

「いや、聞こえたんだけど、二回ほど」

「言ってないって。バカッ、あんたの耳がどうにかしちゃったんじゃないのッ、もうー、なんなのよ、昨日といい、今日といい……あんたにアレを見られてから、もう、散々よ」

「なんか、ごめん……」

「謝って、すまないからぁ……」

「じゃあ、俺はどうしたらいい?」

「知らない、関わってこないで」

「関わらない方がいいのか?」

「あ、当たり前でしょ……」


 妹の口調からは、どこか優しさを感じる。

 本気で嫌がっているようにも思えなかった。


「俺はさ、玲がどんな性癖を持ってても、気にしないしさ」

「……」


 妹からの返事はなかった。

 どうしたんだ?

 悠は強引に扉を開けた。

 玲の部屋は薄暗い。

 朝なのにカーテンは閉め切っていて、妹は室内の床に座り込んでいた。


「ねえ、大丈夫か?」

「バカ、入ってくんなッ」

「ごめん、でも彼氏として気になるというか」

「彼氏とか、そういう恥ずかしいこと言うな……」


 玲は背を向け、問いかけても振り返ってくれない。


「……俺もさ、一応、玲と同じ気持ちだった時はあるさ」

「へ? けど、あんた、そんな態度見せなかったじゃない」

「だってさ、玲のことが好きとかって態度に表したら、絶対に勘づかれるだろうし。恥ずかしかったんだ」

「へ、へえ……あんたにも恥ずかしいって感情があるのね」

「当たり前だろ」


 悠は言い切った。


「俺さ、玲が俺のことを意識してくれて嬉しかったんだ。お兄ちゃん日記もさ。初めて見た時、正直驚いたけど。なんか、安心したんだ。同じ気持ちなんだって」

「日記のこと言うな。バカ……恥ずかしいじゃない」

「別にいいんだよ。恥ずかしくてさ」

「え?」


 妹は驚いた声を出す。

 それもその通り。

 兄である悠が、玲の体を背後から抱きしめていたからだ。


「素直になってもいいんだからな」

「……」


 悠が耳元で囁くと、玲の首元が赤く染まっているのが、薄暗い室内でもわかった。


「変態……こ、こんな事されたら……本当に好きな感情を抑えられなくなるじゃない……」


 妹はそのまま体に絡んである悠の腕を触るのだった。

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