第9話:須藤彼方の過去
唐大阪に流されて来てから約3年。
「お母さん!話したいことがあるんだけど!」
「急にどうしたの!?」
「引っ越しをしたいんだ!あの奈留他県に!」
「え!?ええ。いいけど?」
「やった!もう荷造りはしてあるんだ!」
「あっ。そうなの!なら一週間後くらいに引っ越ししようかしら!」
「わかった!」
そう言って残った記憶を頼りに奈留他県に引っ越ししてきた。
幸いなのが俺が引っ越ししてきたのが小学2年位で友達があまり居なかったくらいだ。
だれにも憐れまれずだれにも悲しまれなかった。
しかし、小さい頃の俺はあの記憶の正体を探りたい!
その一心で動いていた。
奈留他県についた後、俺たちは不動産屋さんで昔住んでいた家が売りに出されているか確認しに言った。
少なくともまだ俺とは親族とか家族などには気づかれるだろう。
しかし、そんな希望も虚しく不動産屋さんの説明を聞き、衝撃を受けた。
「あそこの家は一家殺しにあってしまいましてそれでも買います?」
え?
この県に来ることはわかっていた。
昔は家族などいないと記憶喪失で思っていた。
昔から記憶喪失のせいでこの人がお母さんだと思っていた。
だが、一気に少し記憶が蘇って来た。
一家殺しに合う前に親が俺を逃してくれたこと。
誰かを守って記憶を失っていたこと。
俺は急に記憶が戻って泣きじゃくった。
顔を涙だいっぱいにして泣いた。
泣き続けた。
家族に申し訳ないという気持ちで泣き続けた。
後で知ったことだが、その時大野さんの親も殺されてしまったらしく、今は二人で暮らしているそう。
俺は急いで、家に行った。
少し、血なまぐさい気もした。
俺はこの家になれるまで1年かかった。
そして、俺は今は記憶の片隅に残っていた誰かを今思い出すことができた。
正直泣きたかった。
女子の前で泣くところだった。
だが、「ようやく気づいたの?遅いよ。」
その大野さんの声で俺は限界を超えた。
泣いた。
この何年間で会えなかった思いとともに泣いた。
その時大野さんが俺を抱きしめ、「おかえり。」
そう言って俺をなだめてくれた。
何年間このひとを忘れていたのだろうか。
すっかり俺は泣きつかれてふたりともぐっすりと寝てしまった。
明日思いを伝えようと心に決めて。
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