第9話 与太話ではないか
フリーダがイレオンの町を出てから十四回目の夜を数えた。
途中、いくつかの町を経由して、その土地の名産品や酒などを買い、ターラと呼ばれる植物を編み込んで作った背負子に積み込み、旅を続けた。
行商人の真似事をしているわけではない。
これらの品々は、ある人物への手土産だった。
フリーダの目的地は故郷にある盗賊の根城から少し離れたところにあるモンカヨーヨという山だった。
モンカヨーヨ山は険しく、人の手が入らない未開の山で、その山奥にダフネという名前の世捨て人が住んでいる。
ダフネは不思議な力を持った齢三百を超える醜い老婆だと噂されており、付近の住民から恐れ、忌み嫌われていた。
フリーダは、父や周囲の大人たちから、その老婆の話をよく聞かされていた。
盗賊という稼業をやっていると時として、国外から持ち込まれた舶来品や得体のしれない珍品、魔法の力が込められた貴重な品などを手に入れることがある。
これらの品物の価値がわからなければ、売却の際に大損となってしまうわけだが、父たちはよくわからない物を手に入れた時は、この老婆に土産を持って訪ね、鑑定してもらっていたのだという。
このダフネという老婆は、見た品物の本質と価値を言い当てる特別な力を持っているそうで、その品物の使い方、込められている魔力までわかるという話だった。
町の鑑定屋では、持ち主が何某であると知れ渡っている場合、盗品だとすぐ足がついてしまい、縛り首になってしまう恐れがある。
人知れずその物の価値を知りたい場合などは世捨て人で、忌み嫌われているダフネは都合が良かったのだ。
父たちの話に出てきたダフネであれば、≪フィロメナの短剣≫を鑑定できるかもしれない。迷宮内で起きた不思議な現象と≪ダンジョンの核≫であったことを考えると、ただ美しいだけの短剣ではないはずだった。
フリーダはモンカヨーヨの山中を歩いていた。
登山道などは無く、生い茂った草木を鉈で切り払いながら、木の幹などに印をつけ迷わないように探索を続けた。
山に入って四日目。
本当はダフネという老婆など存在しておらず、父たちの与太話ではないか疑い始めてきた日の夕暮れ過ぎのことだった。
野営をしていて、遠くに薄らと灯りの様なもの見つけた。
フリーダは、焚き火に土をかけて消すと、慌てて背負子を背負い、灯りに向かって歩き出した。
夜が明けてからでは、場所を見失ってしまう可能性があった。
灯りに向かって、真直ぐ突き進む。
そうして数刻後、大きな木の根元に、植物に覆われた古いあばら家が姿を現した。
建物から灯りが漏れ出ていて、住人はまだ起きているようだった。
フリーダは建物の前に立ち、扉をノックしようとした。
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