第7話 わたしは、ばかだ

私は馬鹿だ。


結局、感情と意地で物事を決めてしまう。


このまま、違う町へ行くべきだと頭ではわかっていたのに、イレオンの町に戻ってきてしまった。


そして、町に着くと先ほどまで滾っていた怒りや自負心の様なものは息をひそめ、心の中に不安と後悔が心の中を侵食してくる。


本当に支離滅裂だ。


フリーダは冒険者ギルドの建物に到着してもすぐ中に入らず、窓の外から様子を窺っていた。緊張で指先が冷たくなってきた。


冒険者ギルドといっても、少し大きな酒場のようなものだ。

冒険者と呼ばれる定職を持たない風来坊たちに仕事を斡旋しながら、その情報交換の場として酒場の営業をしている。国内の他の冒険者ギルドとのつながりは希薄というかほぼ皆無で、大きな都市などは複数存在しているケースもある。

だから、冒険者として登録していてもよその町で仕事をする場合は、その町で登録し直さなければならない。


ギルド内の人影は少なく、しばらく観察をしてみたところ、アダンたちはいなかった。


フリーダは深く息を吐いた。

アダンたちがいなくてよかったと安堵してしまっている自分に軽く失望しながら、扉を開け、ギルド内に足を踏み入れた。


入ってきたフリーダに最初に気付いたのは、カウンターで受付も兼務するギルドマスターのディエゴだった。ギルドマスターといっても酒場のマスターに毛が生えたようなものだ。


「フリーダ、生きてたのか。アダンたちの報告ではダンジョン内でコボルトの群れに襲われて死んだと聞いたぞ。無事だったのか」


アダンは毛の生えていない頭に手をやり、驚きの表情を浮かべた。


やはり死んだことにされていた。


「アダンたちはどこに?」


「ああ、入れ違いで今朝がた、ギルドをやめるといってきたよ。もっと大きな町に行って、実入りのいい仕事を探すんだとさ」


大きな町。この近くでいえば、ハプローナやデネリフェあたりか。

追いかけるか。追いかけてどうする。


「ディエゴ、申し訳ないけど私も今日限りで冒険者やめるよ。今回の件で気づいたんだ。こんなその日暮らしみたいなことはやめようってね。命がいくつあっても足りない」


冒険者を辞める気はない。

極力、自然な形でこの町を出ていけるようにフリーダは考えを巡らせた。


「ああ、それも悪くねえ。お前さんは美人というほどじゃねえが、決して不細工じゃねえ。故郷にでも帰って、良い男つかまえて幸せに暮らしな」


正直、このギルドでは無理に引き止めたい人材ではないというわけだ。


「そうだ、ディエゴ。報告しておかなければいけないことがある。≪やがて天に至る者たち≫がフィロメナの迷宮を攻略して≪ダンジョンの核≫を持ち去った。数日中にあの迷宮はきっと消えてなくなるよ。きっと分け前を払いたくなくて、私を殺そうとしたんだ」


もちろん、嘘だ。私って本当は性格悪いかもしれない。


「なんだと!」


ディエゴの顔色が突然変わった。

フィロメナの迷宮は、探索初心者でも経験をつめるお手軽ダンジョンとして人気だったのだ。このイレオンの町の繁栄はこの迷宮目当ての冒険者によってもたらされたといっても過言ではないのだ。

もちろん付近にはほかの迷宮もあることにはある。

しかし、それらの迷宮は古く巨大で難易度も高い。誰もが挑戦できる代物ではないのだ。


ディエゴは大慌てでギルド内にいる冒険者たちを集めて、確認のための調査団を出すことにしたようだ。

フリーダのことなどもう頭の中にはないらしく、カウンターを出て、冒険者たちと話し合いを始めた。


フリーダはその慌ただしい様子を眺めながらギルドを出た。


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