第2話 あげまん

(兎角、夫婦という生き物は、巷の下世話が気になる様でして…)


ちょいとお前さん、聞いておくれ


何だい


ほら、道端ですれ違う度に、

「店長と、言われてあたしゃ、有頂天、なのに悲しき安月給」なんて、ぼそぼそ呟く、見窄みすぼらしい男いただろ?


あぁ、ひょろひょろっとして鼠男に黒縁眼鏡をかけた、そうそう欧米の昔の風刺画に出てくる典型的な日本人みたいな奴のことかい


そう、それ


で奴がどうしたんだい


何でも再婚したらしいんだよ


おめでたいことじゃないか


でね、その嫁さんができた人らしく、何でもあの甲斐性なしの鼠男が、向こう三軒両隣、高級中華をもって伺ったって専らの噂だよ


お前それは、「あげまん」じゃないのかい


何だいお前さん、あげまんってのは? 肉まんの間違いじゃないのかい


あげまんってのはね、男の運気を上げる女の俗称だよ


それじゃお前さん、あげまんの嫁さんがもたらした安月給男の運気ってのは一体何なんだい



それはお前、「賃上げ」じゃないのかい



 

 

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