第11話 偶然か必然か

「あなたがセザール様ですか」

ロイヘンがどこからか拾ってきたのだろう、私をセザール様と呼ぶあたりもう自分の立場をよくわかっているようだ。

「ええ、そうです。私はセザール」

「あなたは神を信仰していると聞きました。僕は神なんて信じていませんでした。でも、神はいます!だってほら、僕の空腹はこんなに満たされている!セザール様のおかげですね」

屈託のない笑みを私に向ける少年は、どことなく馴染みのある顔をしていた。

「そう、私たちは神を信仰しなければならない。君、名前はなんて言うんだい」

「フランと申します。」

「フラン……」

面白いことになりそうだ。

「君、この服を着なさい。そして決して誰にも顔を見られぬよう、フードをいつも被っていなさい。そしてここでは君の名は名乗らないこと。いいね」

「はい、セザール様」

「私の甥に会っていくといい。今頃礼拝室で祈りを捧げている事だろう。綺麗な紫の髪をした、君と同じ真っ赤な瞳を持つ子だ」

「はい、セザール様。」

フードを深く被ると、その子は礼拝室へと向かっていった。

私を楽しませてくれ、フラン。


ーーーーー


今日も祈りを捧げる。何を祈っているのか。何に祈っているのか、自分でももうわからない。

ただ形式上、祈りを捧げる。


「おや、君は」

僕の背後には気付くと少年が立っていた。


「僕の餌になるか?」

にやりとしたり顔でナイフを突きつけてきたそいつは、まるで文字通り悪魔にしか見えなかった。

「それは遠慮しておこう」

ナイフを素手で受け止める。血が流れる。その少年は舌なめずりをしてその血を舐めた。

「君が僕に危害を加えるつもりなら僕も容赦しないが」

僕に銃を突きつけられた少年は相も変わらずニヤニヤとするだけだった。

「食することは美しい、神聖なものだ。その身体に感謝していただくんだ。セザール様も言っていただろう?」

もうあの人に会っているのか。それともロイヘンのお得意の洗脳でも受けたか。

「だが、お前を食らうのはやめておこう。なんせセザール様の甥と聞いているからな」

「立場をよくわかっているようで。この銃弾がいつ君に飛ぶかわからないからね」

「はは、撃ってみればいい。僕は不死身だ」

「どうだかな」

生意気な口を叩くやつは死んでしまえばいいと、僕は躊躇なくそいつの頭部に銃弾を撃ち抜いた。

「不死身なんて嘘じゃないか」

そう呟いた途端、血が流れる頭を抑えながら彼は起き上がった。そんな、まさか。本当に不死身だっていうのか。脳天を貫いたはずなのに。

「何が嘘だって?」

「……こんなことがあるのか」

「あるんだよ。僕は忌み子として生まれてきた。親もいなければ兄弟もいない。でも、もういいんだ。セザール様が僕を解き放ってくれた!僕はいくら人を食べてもいいんだ。もう食欲を我慢する必要はない!」

「なっ……!!!」

そう言い終えると、突如僕の首元へと噛み付いてきた。血を啜っている。本当に悪魔みたいなやつだ。

数分は経過しただろうか、僕が特に抵抗もせずいるとやっと血を飲み終えた彼が満足気に話し出す。

「狂ってるな、僕以上に」

「そうかもな。ご馳走様、いい血だった」

「で、お前名はなんて言うんだ。幹部を任されている偉い僕に名も名乗らないなんて礼儀がなっていない」

「内緒」

そう言うと人差し指を僕の口にあてがう。

「ふん、まあいい。今日はこの街の外れに住む小娘を殺してこいと叔父さ……セザール様からお達しがあったんだ。お前の能力を見てみたいからついてこい、いいな」

「いいだろう、ただしその小娘とやらは僕の餌にしろ」

「いいんじゃないか、幼い子供を食い殺す性癖でもあるんなら」


この時の僕はまさか、この悪魔のような男が僕がずっと探していた人間だとは知る由もなかった。

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