第8話 極悪殺人犯


「今日のご飯はパンとコーンスープだよ」

「わあ、僕コーンスープ好きです」

暖かいスープを啜る。パンをかじる。

相変わらず叔父さんの作る食事は美味しい。


「……?」

「どうしたんだい、クロード」

「いえ、なんでもないんです。少しこのスープ、ザラついていた気がするというか」

「上手くいなかったかな、悪いね」

「大丈夫です、ごちそうさまでした。僕、今日も出かけなきゃいけないので」

「うん、いってらっしゃい。」


いつもの道を歩く。彼女の家までの足取りは今日は心做しか普段より軽やかだ。

視界がぐにゃりと歪む。気の所為だろう。


「ルネール」

「クロード!今日も来てくれたのね。ふふ、今日はトランプで遊びましょう」

「ルネール、僕は」

「どうしたの?」


銃を取り出す。気持ちがいい。視界が分からない。聴覚さえも遠のく。目の前にいるのが愛する人かどうかさえもわからない。


「今日のターゲットは可愛いな。まるでルネールみたいだ、僕のいとしい人。」


頬に手を添えながら、一方の片腕は銃口を彼女に向けていた。

おかしいな。今日は何をしにここに来たんだっけ。そうだ、殺しだ。目の前に女がいる。今日も叔父さんが喜ぶとっておきの物を持ち帰ろう。


「クロード、呂律が回ってない。おかしいわ、どうしたの?」

「おかしいのはお前の方だろ。バカ女」

トリガーを引いた。血飛沫。女の悲鳴。

は、と目が覚める。目の前にいたのは紛れもない愛する人だった。


「だから僕とは関わらない方がいいって、言ったのに」

僕は泣き崩れる。幼い子供のように泣きじゃくる。

ああ、やはり僕は殺人鬼なのだ。

普通に生きる選択はもうやめよう。

幸せを望むのはもうやめよう、

それが決して出来ないから。



「叔父さん、ただいま」

「おかえりクロード」

「今日は極上の女の子を連れてきたよ。紹介するね。ルネール・アレンツだ」

「実に良い死体だ」


泣き笑う。泣くことなどとうにやめていたはずなのに。

叔父さんはそれにすら気付いていないかのように普段通りに僕に接する。


「クロード、良い子だよ」

頭を撫でられる。

今日の叔父さんは、心做しか目が笑っていてなんだか嬉しそうなのでした。


ああ、またいつもの毎日が戻ってきた。

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