第7話 運命の人
裏路地で不意に手を引かれる。
「みつけた」
「……は?」
「ねえ君、なんて名前なの?」
「そっちから名乗るのが先では」
「私はルネール・アレンツ」
「な、何が目的だ。しかも女がこんな街で」
「画家をしているの。絵のモデルになってくれない?」
「…初対面の女性なんか信用しません」
「麻薬の売人もしているわ。でもそれだけよ、家が貧しくて」
何やかんやで言いくるめられ、気付いたら家に連れ込まれていた。
僕はまだ17歳とはいえ男だし、拳銃だって常に備えている。危険は無いだろう。
それに、女性相手だとついつい油断してしまっていた。
「…僕はクロード・ヴァクトマイステル」
「そう…クロードくん。何だかあなたの瞳はある人にすごく似ていて。」
「それで僕をモデルに?」
「あの子、名前すら名乗ってくれなかったから…人違いだったかしら」
「だったら僕なんかモデルにしても良いことないと思いますけどね」
「あら、言うことまでそっくり。ふふ、じゃあそこに座って」
筆に絵の具をつけては描き進めていく。
確かに僕は顔は良いけれど、こんな犯罪者がモデルでいいんだろうか。
いずれ指名手配犯として知れ渡るかもしれない運命にあるというのに。
「…な、なんか見られると緊張しますね」
「見かけによらずウブなのね。あなた今いくつ?」
「17歳ですけど…」
「あら、私より4つ下なのね」
「ええ、そんな年上の女性だったとは」
「敬語じゃなくてもいいのよ」
「……僕、口悪いですよ。環境のせいでね」
「色々あったのね」
そう、本当に色々と。
2年前から僕は教会の教祖をしている叔父と暮らしていた。
家族が死んだのだ。僕が見殺しにしたようなものだ。僕が外出してる間に、火事で家が全焼した。
弟は3歳から行方不明。身寄りなど、ここしか無かった。
叔父は頭がおかしい。そして僕もあの人と居るとおかしくなっていく自覚がある。
殺しなどしたくないのに、強要される毎日。今じゃもう慣れっこだが、危険な目にも遇う。
その生い立ちを僕は全て話した。
「クロードくん」
「えっ、ちょ」
筆を置いた彼女は僕を抱きとめる。
「今まで辛かったのね、よく頑張ったね…」
自然と僕の目からは涙が流れていた。ずっと温もりを求めていた。両親がかつてくれた温もりを。
僕はどうすればいいかわからずただ泣きじゃくってしまう。彼女はそんな僕の背中をさすり続けた。
それからというものの、僕は頻繁に彼女の家に遊びに行くようになっていた。もちろん、日課である殺しを終えてから。
「叔父さん、僕今日はちょっと行きたいところがあるので」
「今日もかい」
「…ごめんなさい」
「いいんだよ、クロード。いってらっしゃい」
「いってきます」
彼女と会っては他愛もない話をしたり、ボードゲームをして遊んだり、絵を描きあったり…充実した日々を過ごしていた。
いつの間にか僕達は両思いのような、そんな関係になっていた。だけど互いが正式に交際を始めることはなかった。
そんな日々が約2年続いた。
まさか追っ手が来ていたとは知らずに。
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