0.81

@hayate2

0.81

とある部屋の一角、今日も私はぎらぎらと目を光らせている。どうして、などという質問は野暮ったい。最早使命として、本能のままに目を見開いている。果樹園と化したこの部屋に佇む私の立場を言い表すならば、「管理者」。多種多様で粒揃いなそれらは、私を嘲笑うかのごとくゆらゆらと揺れている。そう、揺れているのだ。その揺れもまた一興。よく目を凝らさないと分からないような微弱な揺れから、ニュートンも目を見張るような壮大な揺れまで。初期微動継続時間から主要動までのその時間をどうしても短く感じてしまうから、もう少し、もう少し、と乞い願っては俯くのをくりかえす。その間隔、その静と動の曖昧な影が、私に催眠術をかけてくれる。どれかなんてとても選べず、ただ剣の舞を舞うことしかーーーガンッ。どうした。何が起きた。痛い。後頭部が痛い。楽園が急に暗転し、激痛が私を無秩序に苦しめる。左耳の鼓膜が震える。

「おい変態!いい加減にしろよな!」

うるさい。多分鼓膜割れた。耳鳴りが止まない。この数秒で頭と耳に致命傷を与えられてしまった。強い。戦闘員かなにかに狙われるようなことをしただろうか。左耳への攻撃は続く。

「やめろって散々言ってるだろ、そんなに胸が見てえならお前の母親の胸でも見てろよ!」

時間を置いてやっと分かった。この声の主は、隣の席の御杯さん。胸は大きいとは言えないがしかしプロモーションはとても美しく、このクラスでも女子人気ランキング上位3位以内には入る(私調べ)。しかし急に、しかもなんの罪もない私に致命傷を与えているのだから、危険人物であることに変わりはない。私は反撃に出る。

「いっっっっってええええええええええ!」

部屋中に私の声が響き渡る。と言っても次は移動教室で、致命傷を与えられる直前に私と御杯さん以外出ていってしまっているので、驚いたのは横にいた危険人物だけである。「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、ほんとに痛いうわもうなんなんだよおおお」私の演技力と、割と本当に痛いのもあって、顰め面だった御杯さんの表情が崩れ出す。

「え、そんなに、、?ごめん、、、」

意外と直ぐに折れてくれたな。私の手札はまだ残ってはいるが、まあいい好都合だ。この致命傷の借りを返させてもらおうか。

「ほんとに悪いと思ってるなら俺のお願い聞いてよ。」

「嫌だ。」

さあその小ぶりだが綺麗なおぱいをもま、、、、?なんと言ったのだろうか。左耳の鼓膜が終了しているからか上手く聞き取れなかった。危険人物が続ける。

「ちょっと強めに殴っちゃったのは謝るけどそれを差し引いたってあんたがずっと悪いからね。なんなら正当防衛だから。ほら次の授業始まるから、視姦で訴えられるのが嫌なら早く準備しろよ。」

吐き捨てるようにそう言うと、何事も無かったように教室の出口へと向かっていった。

、、、、ふざけるなよ。こちとら致命傷を負わされたんだ。どんな理由があろうと暴力はいけない。何より喧嘩は手を出した方が負けだと相場が決まっているじゃないか。チャンスだ。対象(御杯さん)はさっきの説教でキリがついたと思っているようで、後ろの私を見向きもしない。やられっぱなしで終われるか。作戦なんて、いらない。私は最高のスタートダッシュで一気に御杯さんの背中の約0.81(おっぱい)mmのところまでつけた。やれる。生まれて16年、この瞬間をどれだけ待ち望んだことか。その輝くパイヤモンドに、制裁を下してやる。私の両手は危険人物の美麗な果実を鷲掴んだ、、ように見えた。ガシャ。なんだこれは、、、筆箱?そして気がついた。いない。御杯さんがいない。どういうことだ。確かに彼女の後ろについたはずーーー。

「やっぱ死ななきゃ治らないわお前。」

真下からついさっき聞いた声が、した。


ーーー目が覚めると私は教室の床に仰向けになっていた。股間が痛い。どうやら股間を殴るか蹴るかされたらしい。セクハラだ。時計を見る。もうじき移動教室での授業が終わる時間だ。クラスの人達、そして彼女もこの教室に帰ってくる。次の授業はまた果樹園を楽しめるな。、、今考えると、私も少しは非があった。私は急に貧血で倒れていたことにしておいてやろう。それにしても惜しかった、もう少しで「合法的に」長年の夢を叶えることが出来たのに。そんなことを考えながら、ため息と、最早口癖になったこの言葉を吐いた。

「おっぱいもみたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

0.81 @hayate2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る