第5話 善意の善意による善意のための助け合い

「誰か、、、」


 呼びかけるような、大きな声。そんなに声を出さなくても、聞こえていますよ。

そう答えたくなるような、無理をして出しているような声。


 ああ、ここは天国か。それか、天使が俺を連れにでもきたのかな。


 本当だったら、その声はきれいだろうに。無理させてごめんな。そう思ってしまう。


「誰か、、、」


 何度も呼ばなくていいよ、俺はここにいる。ここにいるよ。


「誰か、助けて!」

 三度目になってはっきりと聞こえたその声は、胸元から鳴っていた。

徐々に瞼を開けると、目の前に青空が広がっていた。

 俺、まだ生きてるのか。


「誰か、誰か助けて!」


 スマートフォンの最大音量を超えているであろう大きさの声がホームにこだまする。

 悲しそうな、苦しそうな声。


 急いで緊急ボタンに向かう人がいれば、スマホを取り出して動画を撮る人、驚いた顔でただ棒立ちをしている人もいて、いつも以上にホームが騒がしいのが分かった。


「痛っ」

 立ち上がろうとした足に力を込めても動かない。捻挫しているのか、ジクジクと鮮烈に痛む。


「だれか、誰かマスターを、マスターを助けて!」


 胸元で叫ぶ彼女の声はとうに枯れ切っていて、ガサガサした声だった。でも、叫び続けていた。




「この手につかまれ!」


力の有り余る大きな声と、電車の扉から延ばされた手。その手を必死に掴む。


「行くぞ、せーの」


何人かで持ち上げているのか、声が重なる。次第につかんだ手から引かれる力は大きくなり、体が浮き始める。


「せーの」


声が一つになった瞬間、体が完全に空中へと飛んだ。


その時、胸ポケットが軽くなったのが分かった。



「あっ」


 メグのかすかな声が聞こえた。スマートフォンが、メグが、飛び出ていった。

 しかしそれと同時に俺は身を乗り出し、彼女を掴んだ。


「危ないっ!」


 誰かの声が聞こえた。その直後だった。


「ギャギャギャギャギャギャーーーー!!!」


 ブレーキを掛け切れず、無理やりかけたブレーキの音がホームで鳴り響いた。







「やったぞ、救出成功だ!」


 ホームに歓声が沸き上がる。ホーム中が騒がしかったが、不思議と嫌ではなかった。

 こうして間一髪、俺"たち"は助け出された。見知らぬ人の見知らぬ善意と、メグの尽力によって。

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