第4話 気まずい空気

 昨日まではただうるさいだけだった駅のホームが今日は違った。


「マスター、まさかとは思いますが郵便ポストで送り返そうとか思ってないですよね。」


 いつもよりうるさい。そして俺はお前のマスターではない。


「マスター、聞いてます?」

「電車乗るから黙ってろ。」


 音量ボタンでサイレントモードに切り替え、胸ポケットにしまい込む。一応必要かもしれないと思い、昨日スマホのカタログを見たおかげで操作は難なくできるようになっていた。


「マースーターー」


 電車に入ろうとしたとき、スマホから聞こえる声。おかしい、さっきサイレントモードにしたって画面にも出ていたはずなのに。


「まさか、、、」


 急いでスマホを取り出した。


「サイレントモードにしても無駄ですよ、マスター。」


 電車内で彼女の声が聞こえた。サイレントモードに変えた表示をその手で変えてくるボーカロイドが過去にいただろうか。

 目の前のうざったい声に怒りを感じながら電車に揺られる。


「マスター、聞こえてます?」

 音量すらも変えてきた。ああもう、うざったい。


「マスター?」 

 車内全体に彼女の声が鳴り響く。電車の中だという事を抜きにしても、異様にうるさくかなり目立った彼女の声は電車内の視線全部をこちらに向けた。

 いつもはあれだけうるさいと感じていた電車内も、今だけは静かに感じた。


「次は~唐木橋前~、唐木橋前~。」

 幸いにも次の駅についた。

 降りる駅ではなかったが、スマホを胸ポケットにしまい込み扉が開いた事だけ確認し、外に進み出た。


 学校の後とか言ってられない。もうこいつをさっさとポストに入れようと急ぎ足で飛び出た。





「あっ」





 一瞬で周りの視線がこちらに向いたのが分かった。さっきとは違う視線だった。

 その後だった。開いた電車のドアが、ホームとは反対向きだったことに気が付いたのは。


 もう遅いと、死を覚悟した。この時間、もう間もなく向かいから電車が来るのは知っていた。


 大きな音と共に、死ぬならせめて痛くしないでとだけ願って、目を閉じた。

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