第38話 獣人王の判断

翌日の夜、レオンたち4人が村へ帰ってきた。


ウェルは狩りへ出掛けてしまったから、僕は先生の家へ駆け込んで、結果について緊張しながら聞いてみた。


『レオン!マリー!獣人王様との会談はどうなったの?』


「ええ!無事に面会する事ができたわ。これもルークが提案してくれたパイロヒュドラの瞳のおかげよ。」


マリーはまんべんの笑みで説明してくれる。


獣人王様にお目通りする事は、やはり容易ではなかったらしい。

けれどディズ、そして元側近のライバー先生の直訴で何とか会談する事ができたようだ。


レオンとマリーはモンスターの大量発生、世界の均衡、その危惧を熱く語ったが、当初獣人王様は半信半疑だったらしい。

けれど、パイロヒュドラの瞳を見せたところ、獣人王様は2人の力を認め、信じてくれたと言う。


ヒュドラの瞳はとっさの閃きだったけど、少しでも役に立って良かったと、僕は内心誇らしかった。


『それで先生、これからこの森はどうなるんです?』


「ひとまず、モンスターが転移される原因については人間たちに任せる事にしました。しかし、このまま大量発生が止まらなければ、森の存亡にも関わります。よって獣人王様は人間と盟約を結ぶ事としました。」


『盟約??』


僕が目を丸くしていると、ディズが真剣な顔で答えた。


「そうだ。この森のあるブロリセアンドとだ。基本的にはこれまで通り人間は獣人に干渉しないが…森がモンスターにより危機的状況になれば、人間が強制的に加勢する。我々としても、そんな状況を起こさせなければ良いだけだから、獣人王様は万一に備え了承したのだ。」


ディズの語り様から、獣人王様も世界の均衡について理解してくれたらしい。

レオンとマリーも、獣人たちと争う事なく、これからこのメドウとの要所を守ることが出来るから、満足な内容だったと言う。


「ライバーさん、ディズさん、今回は本当にありがとうございました。僕らは早速今回の結果をブロリセアンドの王へ報告しようと思います。」


「ふん…どちらにしろ、お前らがさっさとモンスターの大量発生を止めればいいだけの話だ。」


「ええ、その件は僕らの命に変えても、必ず成し遂げて見せます!」


レオンの真っ直ぐな瞳に、心なしかディズも軽く笑っていた。


「お2人とも、はやる気持ちはわかりますが、人間にとって森の夜は危険です。今晩は私の家で休んで、出発は明日の朝にされてはいかがですか?」


「よろしいんですか?ライバーさん。何から何までお世話になってしまって…」


「良いんですよ、マリーさん。それにお世話になるのはこちらの方なんですから…。」


先生の提案を受け、レオンとマリーは別室へと消えていった。


ディズもこれから城へ戻ると言う。

短い間だったけれど、この人も僕にとって恩人である事には間違いない。


「ディズさん…迷惑ばかりかけてすみませんでした。」


「全くだ。お前みたいな弱い獣人は初めてだったからな。」


僕は当初嫌な奴と思っていた自分が恥ずかしくなって、下を向いてしまった。


「だがなルーク、俺たち獣人は決して強さだけを求めている訳じゃない。自身の欲望に忠実なだけだ。どんな時でも、決して自分を見失うなよ。」


そう言うとディズは先生の家を後にして、城へ戻って行った。

偉大な先輩の言葉を、僕は胸に深く刻んだ。


ひと段落つき、僕もそろそろ狩りへ出かけようとした時、先生が僕を呼び止めた。

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