第35話 再戦

翌日の夕暮れ、僕はレオンとマリーに合流し、さっそく南東の岩場へと向かう。


『レオンさん、マリーさん、相手は僕ら獣人が4人がかりで倒せなかった相手です。正直勝算は薄いと思います。』


「マリーでいいわよ、ルーク。それより機転を効かせてくれてありがとね。私たちだけじゃ、きっと門前払いだったもの。」


マリーはとっても気さくな女性だ。丁寧であって、それでいて親しみやすい。


「僕の事もレオンでいいよ。これからは共に戦う仲間なんだから、遠慮しないで。」


レオンもとても誠実で、頼れる兄といった印象だ。この2人を見ると、人間は聞いているよりずっとまともな種族なんじゃないかと思えてくる。


『2人とも!着きましたよ!あの岩場にパイロヒュドラが潜んでいます。気をつけて下さい、奴は猛烈な炎を吐く上に、頭は5つありますから!』


僕がそう忠告すると、2人は静かに微笑んだ。

岩場の奥に目をやると…そこには暗闇に光る10の瞳が見えた。


奴を見るなり、僕は身体中の血が熱くなった。

あいつのせいで、先生は片腕を無くしてしまったんだ!


僕は考えるより先に、パイロヒュドラの首筋目掛けて飛びかかっていた。

爪に魔力を込めた、僕の渾身のウルフファングが突き刺さる。


ヒュドラは残った4つの頭で僕に噛みつこうとするが、僕だって負けていられない。

先生のようにはうまくいかなかったが、体の軸を中心に高速回転させ、ヒュドラの攻撃を掻い潜る。


僕は一旦距離を置き、振り返りざまに再度ヒュドラの首目掛けて飛びかかる。

自分でも、こんなに高速移動するのは生まれて初めてだ。

けれど、この時は無我夢中でヒュドラに襲い掛かっていた。


僕の攻撃は、確実にパイロヒュドラを捉えていた。だが、無常にも僕の斬撃ではヒュドラは一向に倒れる気配がなかった。


戦闘開始から、ものの数分の出来事だったと思う。僕は着地の瞬間に姿勢を崩してしまった。

振り返ると、5つの頭が大きな口を開け、僕に目掛けて特大の炎を吐いていた。


「危ない!ウォーターポール!」


とマリーが叫んだ瞬間、僕の周りを巨大な水の柱が囲っていた。

炎は水にかき消され、僕は一命を取り留めた。


「ありがとうマリー!次は僕が前に出るから、援護してくれ!」


レオンが叫ぶと、マリーは次の呪文を唱え始める。


「いくよレオン!エアスラッシュ!」


マリーが唱え終わると、いくつもの回転する風の刃が、ヒュドラ目掛けて飛んでいく。

一撃一撃が、僕のウルフファングと同じか、それ以上の威力だ。

さすがのヒュドラも身体中に深傷を負い、一瞬動きが止まる。


その瞬間だった。

高く飛び上がったレオンが、ロングソード片手にヒュドラの首へ斬りかかる。


まさに一撃だった。

あの数十メートルに及ぶパイロヒュドラの首を、レオンはたった一撃で切り落としてしまった。


のたうち回るヒュドラに、レオンは次々に連撃を重ねていく。

気づくと、そこには5つのヒュドラの首が転がっていた。

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