第32話 天秤

「ふん、人間同士の醜い争いに、なぜ我ら獣人が巻き込まれねばならんのだ。人間はやはり自分達の種族しか考えない、浅ましい生き物だ。」


『ディズさん、獣人なら誰しも持っているその気持ちは間違っていません。ですが、森で倒れた僕や、重症の先生を助けてくれたのは、紛れもなくレオンさんとマリーさんですよ。』


「そもそも、お前が森で倒れなければこんな事にならなかった。同じ獣人として情け無い。ライバー様もいづれ自力で回復された事だろうよ。」


ディズもウェルも敵意を持っている事はわかる。人間と獣人のわだかまりはそんな簡単には解決しない。けれど、そこに縛られていては、とりあえずマリーの話の続きも聞けない。


僕たちは2人の話を聞いて、モンスター大量発生の原因を解決しなければならない。でなければ、今後パイロヒュドラのような強力なモンスターが大勢現れたら、獣人の存亡にも関わってくる。少なくとも僕はそう理解した。


だから、ディズに言い返したい気持ちを堪えて、マリーに続きを話すよう勧める。


「獣人の皆さんがご存じかわかりませんが、私たち人間の国は6国に分かれております。そして、この6国は大陸を分断するマスナル山脈を中心に円を描く形にある為、互いに攻められない状況にあります。」


「人間の国家間のバランスは聞き及んでおります。一方が他の国を攻める時、後方ががら空きになってしまう為、反対に位置する国に攻められてしまう。ひとたび大規模な出兵が始まれば、連鎖的に全ての国で戦いが始まってしまう、と。」


さすがは先生だ。僕らでは想像すら出来ない事を既に知っている。

けれど、それとモンスターの大量発生に何の関係があるのだろう?


『あの…マリーさん。人間が戦争を始めたいのに、何でこの森にモンスターを出現させる必要があるんですか?』


僕は思わず尋ねてしまった。


「それを理解する為にはねルーク、もう少しこの大陸の地理を知る必要があるのよ。この大陸は南北を分断するマナスル山脈を中心に、東側にバレン、コースト、アペニグランデの3国があるわ。私たちのいるブロリセアンドは山脈の西側にあって、南にはメドウ、北には島国のナイトキングダムがあるわ。」


すごい。森の外や山脈の向こうは人間の国が広がっていると聞いていたけど、世界はこんなにも広かったんだ。


「!!なるほど!そう言う事ですか!」


先生が何かわかったかの様に呟く。


「ライバー様、これはもしや…。」


ディズも何か勘づいた様だ。

ウェルだけは、全く興味の無いそぶりで、もはや話すら聞いていない。


「ライバーさん、ディズさん、もうお気づきかも知れませんが、この森はブロリセアンドの東にはありますが、南にメドウ、さらに東には山脈という要所なのです。この森に獣人の皆さんがいるからこそ、メドウとブロリセアンドは簡単に攻め合えないのです。」


レオンが丁寧に僕らに語りかける。

僕ら獣人の存在が、人間の国家に影響を及ぼしているなんて、これまで想像したこともなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る