第25話 焼け跡

暗闇の森では、視力がほとんど役に立たない。僕らは嗅覚と聴覚を研ぎ澄ませて、岩場へ進む。


幸い、ヒュドラ以降目立ったモンスターには出会わなかったが、森を抜ける手前、僕たちは何か焦げ臭い匂いに気づく。


「??森が焼けている?」


最初に言葉を発したのは、ウェルだった。


「焼けてるなんてもんじゃない。ここから先は焼け野原だ。」


ディズも辺り一面の焼けこがれた匂いに、先の光景を想像し口にする。

これだけ広範囲に渡る匂い、決して自然に発生した火災なんかじゃない。明らかに意図的に焼かれた匂いだ。


森を抜けると、案の定焼け野原が広がっていた。月だけが、静かに佇んでいる。

その月明かりに照らされて、よくよく地面を見ると、大地が大きく削られているのに気づく。

何かが通った形跡だが…小さな水路が作れそうな溝跡だ。一体ここで何が起こったのだろう?


焼け野原を通過すると、そこから先は険しい岩場だった。


「ライバー様、この状況どう考えますか?」


「かなり大きなモンスター…おそらく10mは越えるでしょう。そして、何かしら炎の攻撃を行なってくる可能性が高いです。」


先生はそう言ったけど、本当にそんなモンスター地上に存在するのだろうか?

僕の少ない想像力で思いついたのは、小さい頃に聞いたことがあるドラゴンの伝説だ。

けれど、ドラゴンなんて存在するかもわからないし、存在したとしてもこんなところに巣食う理由がわからない。


『先生、そんな大きなモンスターって、どんなのがいるんですか?』


僕がそう問いかけた時、足元の岩場が動いた様な気がした。


「ルーク!危ない!そこから飛び離れなさい!」


先生の叫ぶ声が聞こえた。

と思うと、足元の岩場が1本の巨大な柱となって僕の目の前に立ち塞がった!


巨大な柱は何本にも枝分かれしていて、そのうちの1本が僕へ向かって鞭の様に襲い掛かってくる!


僕は足の筋肉を限界まで強ばらせて、前方へ一足飛びする。

柱は岩にぶつかり、辺りに低く鈍い音が短く鳴り響く。


柱をよくよく見ると、それはさっきのヒュドラに似ていた。しかし、その大きさは数倍もあり、高さはゆうに10mを越えていた。


「こいつが兵士を殺した犯人か!」


ディズがワイルドファングでモンスターの胴体へ斬りかかろうとした瞬間、ヒュドラの頭の1つから大きく口が開いた。


「ディズ!避けなさい!」


またも先生の叫びが響き渡る。

ヒュドラの口の中が赤く光ると、なんと口から炎を吐き出し、ディズの体へ直撃した。


吐き出された炎の風圧で、ディズが後方へ吹き飛ばされる。


百戦錬磨であろう近衛兵のディズが、一撃で吹き飛ばされてしまった。

僕は想像もしていなかった光景に動揺し、先生へ叫び返す。


『先生!こいつは一体なんですか!?』


「パイロヒュドラです!先ほどのヒュドラとは、大きさも攻撃力も桁違いです!ルーク!ウェル!敵から目を離してはいけませんよ!」


辺りが炎の残り火に照らされて、ようやくモンスターの全貌がはっきり見えてくる。

胴は岩を幾つも合わせた様な巨体で、頭は5つに分かれたヒュドラだった。

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