第24話 経験値

「ルーク、大丈夫ですか?」


先生は僕に近づいて、治癒魔法を右腕の火傷部分にかざしてくれる。

温かく、そして柔らかな薄緑色の光が、僕の腕の痛みを和らげてくれる。


『先生、ありがとうございます。おかげで腕もだいぶ良くなりました。』


僕がそう言うと、先生はいつもの優しい笑顔で微笑んでくれた。


改めてヒュドラを見ると、とても不思議な感覚に襲われる。もちろん恐怖もあったかも知れないが、今はこのモンスターが一体どこからきたのか、そもそもどういったモンスターだったのか気になって仕方ない。


「先生もディズさんも凄すぎます!俺の蹴りが全く効いていなかったモンスターを、2人ともあっさり倒してしまうんですもん!一体どうやったんですか?」


ウェルはいつになく興奮した感じで、目を輝かせている。


「何、簡単な事ですよ。私は風の魔法を身体中に巡らせながら、回転しただけ。ディズは身体強化の魔法を腕に込めて突き刺しただけですよ。」


改めてだが、僕ら獣人は武器も魔法もほとんど使わない。

風の魔法を使わなくても速く走れるし、身体強化の魔法を使わなくても、この森で仕留められない生物はいなかったからだ。


けれど、僕ら獣人の能力と魔法を組み合わせ戦うと、これほどまでに高い攻撃力を生み出す…。これが戦闘経験の差と言うべきものか。


「ライバー様が使った技はウインドストライク、回転しながら突進する攻防一体の技だ。一方俺の技はウルフファング。獣人の最も基本的な攻撃方法だ。」


ディズは呆れた様に続ける。


「今の戦闘で、お前らがこれまでただ力任せに蹴り上げたり、腕を振ってきたのがよくわかる。戦闘に慣れた獣人なら、自然にウルフファングくらい使うようになるからな。威力も上がるし、体そのものの疲労も少なくて済む。」


簡単に言っているが、そこはやはり獣人王様の側近である先生とディズなのだろう。

頭では理解できても、並の獣人が扱える技ではない。


「すっげー!俺も次の戦闘では試しに魔法と組み合わせて戦ってみますよ!」


今の話でウェルは技のヒントを得たのか、今すぐにでも戦って試したそうな気持ちに溢れている。


「ですが…城の兵士ならそれなりに戦闘経験も多い。ヒュドラごときに遅れは取らないはずですが…。」


さっきのモンスターを[ごとき]と言ってしまうあたり、僕らと先生の間にはとてつもないレベル差があるのがわかる。

しかし、僕は戦いよりももっと聞きたい事があった。


『先生、ヒュドラとはどんなモンスターなんですか?』


「ヒュドラは主に山岳帯の高所に生息しています。普段は大型の鳥型モンスターなどを獲物としているので、森まで降りてくることはまずあり得ません。」


『そんなモンスターがこの辺りにいて、更に城の兵士がやられていると言う事は…』


「ええ、おそらく更に強力なモンスターがこの先の岩場にいて、兵士はそいつに殺されたんでしょう。」


先生は僕の想像通りに答えた。

僕らレベルではヒュドラは強敵だったが、先生やディズからしたら大した事のないモンスターであった。

僕らにも獣人王様がいて側近がいるくらいだ。

ここに横たわっているヒュドラが、モンスターの主の側近であった可能性は高い。


「皆さん、ここから先は特に警戒して進みましょう。」


僕ら4人はお互いの顔を見やると、更に先に進む事にした。

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