第16話 森の異変
「ディズさんは、どうしてこんな森の外れに来たんです?」
ウェルが黒灰色の獣人に問いかける。
獣人王様の側近は、普段は城から出る事がない。
日々の食料調達は、僕ら各村の獣人の日課であって、側近なら常に城を守っているはずだ。
「お前らみたいな呑気な獣人がいるおかげで、俺たち城の兵士は退屈する事がないな。」
なんだか卑屈な言い方に、正直僕は嫌悪感を募らせていた。アンタたちが毎日の飯に困らないのも、僕ら一般の獣人が毎日狩りに出かけているからじゃないか。
「!!もしかして、モンスターの大量発生の事ですか?」
僕が黒灰色の獣人に言い返す前に、ウェルが答えた。
「そうだ。先程のゴブリンもそうだが、最近森の各所で多種多様のモンスターが発見されている。」
確かに、そもそもこの森は迷いの森だから、部外者は簡単には入れないはずだ。
僕だって、匂いを頼りに歩き回れる様になるまで、どれくらい苦労した事か。
『もしかして、ディズ?さんは、獣人王様の命で森の調査をされてたんですか?』
「調査と退治だ。しかしこの森の獣人たちのレベルがお前たち程度だと思うと、事はいっそう深刻になりそうだな。」
ディズと言う獣人は、半ば失望した感じで答える。
腹の立つ言い方だけど、ゴブリンの群れに手こずっていた手前、何も言い返せない。
「そうだ!ディズさん!僕らの村はここから割と近いです。少なくともお城に戻るよりかは近いですから、今夜は僕らの村に寄っていかれませんか?助けて頂いたお礼もしたいですし。」
この高圧的な獣人に対し、全く動じる事なく話かけられるウェルはさすがだ。
僕はたとえ相手が命の恩人だとしても、嫌いなものとは関わりたくない。
「いらん気遣いはするな。俺はあくまで獣人王様の命に従って、お前らを助けたまでだ。」
何だろう、この人の言い方は。
さっきはちょっと油断しただけなのに、ずっとこんな印象を持たれ続けると思うと、非常に癪だ。
「でしたら、なおさら俺たちの村に寄っていって下さい。きちんと準備を整えれた方が、調査もはかどるでしょう?」
「…まあ、確かにな。この命令は失敗する訳にはいかない。いいだろう。今夜はお前たちの村で休ませてもらう。」
なるほど、言葉では黒灰色の獣人よりウェルの方が一枚上手のようだ。
…と言っても、はっきり言って僕は村へ来て欲しくなかった。でも他ならないウェルからの提案。
それに仮にも僕の命の恩人なら、仕方ないかと思い、僕は自分を納得させた。
「それはよかったです!お話もいろいろ聞きたいですし!案内します!」
ウェルは何故かどこか嬉しそうだ。
ウェルとは幼馴染だが、感性は僕とは違うらしい
。
僕らは、ゴブリンの腐臭を後にして、村へ戻る事にした。
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