第8話 人間について
「2人とも、おかえりなさい。無事に帰ってきて何よりです。」
村に着くと、先生が僕らを労ってくれた。
「今日は大収穫だったみたいですね。2人とも大したものです。」
僕らは、2人合わせて20匹近くの獲物を仕留めていた。さすがにこれだけ仕留めると、村の大倉庫へ運ぶのも一苦労だ。
だが僕は、今日はとても清々しい気分でいた。なんせ、生涯でこれほど多くの獣を仕留めたのは初めてだったからだ。
それもこれも、ウェルが僕に良い手本を見せてくれたからに他ならない。
しかし、僕の表情とは裏腹に、ウェルの顔はどこか曇っていた。
僕は何か気を悪くさせる様な事を言ってしまっただろうか。
ウェルは終始無言であった。
獲物を全て運び終えて、最後に2人で先生へ本日の報告へ向かう。
大収穫であったはずなのに、どこかぎこちない空気が流れる。
「ウェル、どうしました?どこか表情が暗い様に見えますが…?」
さすがに見かねて、先生が話しかける。
「先生…実は今日俺たち、つい森の外れまで行ってしまったんです。」
ウェルの言葉を聞くなり、穏やかだった先生の顔が急激に強張る。
目は鋭くなり、微笑んでいた口元は下がってしまっている。
「それは本当ですか?ルーク?」
怒りでもなく、驚きでもない。冷静な事実確認が僕へ問われてきた。
『あ、はい。つい夢中になって、人間の生活圏ギリギリまで迫ってしまいました。』
不穏な空気が流れるが、僕にはその理由が全くわからなかった。
「2人とも、人間という種族がどういったものか、知っていますね。」
もちろん、僕も小さい頃から聞かされてきたから、人間が何なのかは知っていた。
利己的で、排他的、自分達が豊かになるためなら、どんな非道な手段も平気で利用する、とても卑しい存在だ。
だから、僕たち獣人は決して人間と関わってはいけない。
この森に住む獣人であれば、誰でも持ち合わせている感覚だ。
だが、僕自身はと言うと、果たしてそれが本当なのかわからなかった。
と言うより、あまりに人間に関わらなさ過ぎて、特別意識した事がなかったと言うのが正解かも知れない。
僕は意を決して、先生に尋ねてみた。
「先生、人間とはどうして関わってはならないものなのですか?」
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