家族会議と再婚1

 夏真っ盛りだからかまだまだ明るい午後18時。

 俺たち《戸塚家》は誰もいない、どこか静けさすら感じる教室に足を踏み入れた。

 茜色の夕日に照らされてほんのりと明かりが感じられる窓際。

 文化祭の注意点が書かれている黒板。

 教室内はここ数日誰も触っていなかったからか少し埃っぽかった。

 俺は窓際のお互いにしっかりと顔を見渡せる席に二人を誘導し、呟いた。

「まず、何でここに呼び出したかは二人とも分かってるよね」

「「...うん」」

 少し前にりこにこの件について説明したのだが、その時はパニックになってしまっていたものの、今はもう覚悟を決めたような顔をしていた。

 母さんについても同様である。

 ......俺のようなゴキブリ人間兼戸塚菌には物事をオブラートに包んで伝えるなんてことは出来ないので、りこのメンタルの強さには救われた。

「最初にりこはどう思ってるのか聞かせてもらっていい?」

 俺がそう問いかけるとりこは最初こそギョっと顔をしかめさせたものの、すぐに整え失言がないようにか、言葉を選ぶように呟いた。

「......私たちに未来があるように、お母さんにも未来があるわけじゃん」

「...そうね」

 母さんはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべ、りこを見つめている。

 当たり前ではあるが、母さんも母親として色々と思う所があるのだろう。

「だから未来がある私たちこそ、そんなお母さんの幸せに口出しできる義理もなければ権利もないのかもしれない.......というかきっとないよね」

 りこが言ってることは全くもって正論である。

 親子と言えど、他人の俺たちが気に入らないからと言って母さんの人生に口出しするのは筋違いだし、恩知らずなのだろう。

「でもさ......正直、バカな私はこれで昔の幸せな思い出が戸塚家でタブーになったり、家族関係がぐちゃぐちゃになっちゃうんじゃないかって思ったりもしてるんだよね」

 思春期から普段は自分の本音を話さないからか、りこの声は弱々しく震えていた。

 だが、本音をまだロクに話せてすらいない出来損ないのゴキブリ人間兼戸塚菌よりは《兄》遥かに立派である。

「......そうよね。いきなりこんな話したら優もりこも不安になっちゃうわよね。配慮が足りてませんでした...本当にごめんなさい」

 ......りこにここまで言わせたのなら、俺も全てを吐き出さなければいけないだろう。

 兄として、息子として、そして後輩として俺は緊張から悪い意味で高鳴る胸をギュッと抑え、呟いたのだった。



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