修羅場と動画

「なら、私にも道理としてのお話をさせてください。これをどうぞ」

 俺は制服のポケットから数年間使い倒したからか、最近どんくさくなってきたスマホを出し、吉田社長に押し付ける様に渡した。

『おら!お前は何度俺の里香を苦しめたんだ!おい!』

 数人の男が半裸の男を殴り、蹴り続ける異質な光景。

 鈍くて思わず耳を塞ぎたくなるほどにグロテスクな音。

 周囲から薄っすらと聞こえてくる笑い声。

「......おい。これは何だ」

「息子さんの喧嘩?の場面です」

「...」

「もし、これを息子さんが今通われている高校の先生方に見せたらきっと、活発で元気な子だと思われて評価が上がるでしょうね~試してみようかな?」

 ......そう。

 性格が歪んでいることに定評のある俺の切り札とはリンチ動画である。

 なにかあった時の為に一応、残しておいたがまさかこんな所で使うはめになるとは思わなかった。

「...脅してるつもりか?」

「いえいえ、滅相もありません。私はただ一高校生として、事実を言ってるだけです」

「お前...」

 吉田社長は余程焦っているのか、動画の中のリンチされている男と俺が同一人物であると気づいていないようだった。

「こんなの脅しにもなっていないからな!」

「脅していないのだから当たり前ですね。これを吉田くんの進学、就職先、はたまた将来取引先の人に見せたらどうなるのかな~?」

 吉田社長は恨めしそうに歯をギシギシと鳴らし、俺のことを睨んでくる。

 そんな彼の反応も普段、誰からも注目されないゴキブリ人間兼戸塚菌に取っては自己承認欲求を満たしてくれるスパイスでしかない。

「大体、そんな事をしたら君の人生だって終わるんだぞ!」

「は、はあ」

「いいか!教えてやる。君が今、やってることは脅迫罪だ!そして、もし動画を広めたら名誉棄損だぞ?」

「そうなんですね。流石、博識!」

「ふざけるな!君は息子に口出しする前に自分の人生についてよく考えたらどうだ!」

「いや、俺の人生なんて当の昔に終わってますし、それなら未来ある息子さんについて考えた方が生産的じゃないですか?HAHAHAHA」

 .......ゴキブリ人間兼戸塚菌の人生はもう再築は不可能なほどに、完膚なきまでに破壊されているのだ。

 言わば、『無敵の人』である。

 ちなみに中三の時、下級生から『犯罪者予備軍』と呼ばれていたHAHAHA.......!う、ウケる

「お前の人生が終わってようがなかろうが知った事じゃないが、息子の邪魔はするな!そして、私たち親子に関わるな!」

「も、もしかして不快な気持ちにさせてしまいましたか......?」

「当たり前だろ!」

「なら、お詫びとして吉田くんのお茶目な一面が記録された動画を各方面に送りますね」

 居るだけで不快と言うことで有名な戸塚菌だが、粋なはからいもしっかり出来るのだ。

「余計なことをするな!!!」

「交換条件と言うのはどうですか?」

「...言ってみろ」

 流石に情報差的に不利だと感じたのか、続けるように促してくる。

「もし、この文化祭に企業として予定通り参加してくださるのであれば、卒業と同時にこの動画は削除します。それで、あなたは企業、息子の名誉どちらも守れる。どうですか?」

「そんなの交換条件になってないだろ!お互いの妥協あっての交換条件だぞ???お前の意見を全て受け入れるなんて無理だ!」

「残念です。なら、息子さんの高校と...マスコミと...警察に被害届を出して~...あとは何をすればいいのかな?」

「......わかった!わかった!それでいい!だからそれだけはやめてくれ...」

「ご理解頂きありがとうございます。お時間がある時で良いので、書類にサインだけしておいて下さいね」

 かくして、何とか交渉成立したのだった。

 この時の俺はこの後、あんな修羅場が起きるとも知らず安堵のため息を吐いた。


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 次回また物語が大きく動いていくと思うのでお楽しみに!

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