社長との直接対決と切り札
翌日の放課後。
母さんの部下に案内された俺は雲すら突き抜けていそうなくらいに高い35階の社長室に来ていた。
多忙な母さんは他のプロジェクトでどうしても外回りに行かなければいけなくなってしまったらしい。
......それにしてもゴキブリ人間兼戸塚菌みたいな社会不適合者がこの場にもう一度来れられるとは思わなかった。。。
俺みたいなヤツが将来職にありつけるとは思えないから、きっとこれが人生最後の会社訪問になるだろう。
あっ、でもブラック企業で馬車馬のように働かされる可能性はあるかHAHAHAHA
「それで、生徒さんたちが俺に何の用ですかな?」
ドラム缶のように線が太い身体に、派手で如何にも高級そうなスーツ。
電気の光に反射して眩く輝く時計。
吉田社長は露骨に不機嫌そうな声色で呟いた。
「はい。御社に再度、文化祭への参加について考え直してほしく伺わせて頂きました」
「無理だ」
吉田社長は机を勢いよくバンッと叩き、こちらに睨みを利かせてくる。
そんな社長の行動に我慢できなくなったのか千歌先輩が口を開いたが、俺との約束を思い出したのかまたすぐに閉じた。
「私どもと致しましても、ここまで誠心誠意努めてきた所存です。失礼ですが、理由を伺っても良いですか」
「......息子の過ちに寛容でない御校に私が金を出す義理はありません」
息子の過ちとは例の件の事だろう。
「あんなの学生の喧嘩ならよくあることだ.......それなのに、はあ...人を責める前に自分の高校の異常性について考えた方が良いと私は思いますけどね」
「どのような対応だったら寛容だと言うのですか」
「お互い謝ったら終わり!私たちの時代なんて喧嘩と言ったら殴り合いでしたよ?それで、気が済んだら仲直りして終わり!なぜ、処分を下すのか全く理解できませんね」
吉田社長は余程腹が立ったのかさらに顔を真っ赤にして、貧乏ゆすりをし始めた。
「それに、これもいじめじゃないんですか?無抵抗な子供を学校が全権力を駆使して潰しに掛かる。それで、いざと言う時は金の無心に来る?ふざけないでください」
「お言葉ですが、あれはあきらかにお互いの合意に基づいた喧嘩ではありませんよね。リンチを喧嘩と表現するのはおかしいかと」
正直、交渉の場でこうして真っ向から対立するのは本来ならデメリットしかないだろう。
でも、今回に限っては違うのだ。
「君は俺の息子が一方的に同級生の子をいじめたと言うのかね!」
「はい。少なくとも、勝手に喧嘩を始めて勝手に散っていったと思っています」
こうして大人の男性と言い合うのは経験があまりなかったので、思わず尻込みしてしまう。
そういった点では俺の人生はある意味では恵まれていたのだと今ふと思った。
肉体的、生物として脅威になり得るようなヤツは前回の吉田たちと今回の件だけなのだ。
「俺はあれはただの若気の至りで、喧嘩だと思っています........それに俺は金も相応な額は出してきたんですよ?少しは筋を通してもいいんじゃないですかね?」
「それは忖度しろと言うことですか?」
「そんな事は一言も言ってませんよ。あくまで道理の話です。まあ、でも金を出そうが出さまいが俺の勝手じゃないですか。この会社は俺の利益を最大化する為に動いてるんですから」
「なら、私にも道理としてのお話をさせてください。これをどうぞ」
俺はこの絶望的な状況を打破するためにあるものを差し出したのだった。
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