吉田社長と恨み

 あれから数分後、顔を歪ませた母さんがとぼとぼとした足取りでこちらへ来た。

「ごめんなさい。電話の通りだけど、今回の件はなしになったって」

「何でですか?」

「新事業に集中したいかららしいです」

 ゴキブリ人間兼戸塚菌がおかしいと思うくらいにはこんなの横暴である。

 こちら側としては文化祭に向けてかなりのリソースを注いでいたのだ。

「失礼ですが、社長さんの苗字って吉田さんですよね」

 ずっと口を閉じ、真剣な眼差しで聞いていた千歌先輩が満を持した様子で口を開いた。

「え、ええ」

「この件を吉田社長が始めようと思った理由って聞いたことありますか?」

「確か、この学校に縁があったとか」

「実は以前、優くんとの件で転校した吉田くんの父親が社長っていいう噂が流れていたことがあったんです。真偽は不明ですが、こうすれば辻褄が合うと思いませんか?」

 つまり、実は社長は吉田の父親で学校や俺たちに復讐するために参加をやめた.......ありえそうなシナリオである。

「失礼ですが。戸塚さんはあの件で学校に呼び出されていましたよね。その時に社長さんを見かけませんでしたか?」

「残念ながら吉田くんのお母さまがこられていたので........」

あの黒歴史を脳が抹消しようとしているからか、あまり記憶にないのだが母さんの言っていることはおそらく正しいだろう。

 ......まあ、ゴキブリ頭ならぬ鳥頭が言っても何の信憑性もないのだがHAHAHAHA

「うちの学校にも吉田さんは何人もいるので、白の可能性もありますが、正直現時点では限りなく黒だと思っています」

 ......やはり、千歌先輩はこういう時も冷静かつ的確な判断ができるのだからすごい。。。

 だが、きっとっこれじゃ駄目なのだ。

これでは、松坂さんの時と何も変わらない。

俺自身が動かなければいけないのだ。

「すみません、明日もう一度時間を頂けますか?僕に考えがあります」

 もしも千歌先輩の話が事実なのだとしたら、俺みたいな戸塚菌にも勝機はある。

 いや、ゴキブリ人間にしか使えない手があるのだ。

「......わかりました。きっと、それはOKしてくださると思いますので明日また話し合いましょう」

「ありがとうございます。なら、今日はこのぐらいで僕たちは帰ることにします」

「わかりました。それではまた明日」

 俺たちは一礼し、人や電話の音で騒々しいオフィス内を後にした。

 行きはあんなにハイテクに見えたエレベーターや俊敏に動く自動ドアも今となってはただの鉄くずである。

 俺は重く、ほんの僅かな希望がある足取りの中、ただただこの件の成功を祈り続けたのだった。  

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