お泊りと義妹

 あの後、お風呂などを借り寝る準備を済ませた俺は千歌先輩の部屋に訪れていた。

 ちなみに母さんには千歌先輩のお母さんが連絡してくれたらしい。

 確か今日はりこも友達の家に泊まると言っていたので、母さんに例の件についてあれこれ言われることはないだろう。

「...」

 ......綺麗好きにしか許されないような純白を基調とした部屋に、物は多いもののきちんと整理整頓されているからかスタイリッシュな印象を抱かせる内装。

 孤立系戸塚菌が想像していた『ピンクがかった女子の部屋』とは随分と違ったが、現実はこんな感じなのだろう。

 とはいえ、やはり千歌先輩の部屋だけあってお洒落である。

 ........少なくともゴキブリ人間にはこんな部屋を創造する力もなかれば、維持する能力すらない。。。

 まあ、そもそも戸塚菌で汚れるから『純白』と言う前提条件すら達成できるのか怪しいのだがHAHAHAH

「ほら、このバンドのオルタナティブロックな曲が好きなんだよね~!」

 千歌先輩は目を輝かせながら、何やら分厚いアルバム数枚を手渡してきた。

 見た目通りかなりの重量があり、ずっしりとした感触が手首に直で伝わってくる。

「わかります!スリーピースバンドなのに、迫力あって凄いですよね!」

 こうして話が合う友達の家に泊まりで行き、夜更かして趣味について語り合うだなんて自分が自分ではないようで、何だか不思議な感じがした。

 ........俺が非社会的なゴキブリ人間なせいだろうが、最近ふとした時に以前からすれば考えられないような今の俺の思考や言動に自分自身で驚いてしまう時がある。

「でも、なんか意外かも!君ってこういう変則な曲も好きだったんだね~」

 「結構好きですよ!それに、このバンドのギタボって不祥事起こしたのに、謝罪会見で逆ギレしたじゃないですか~!なんか、同族って感じがして感情移入できるから好きなんですよねHAHAHA」

「まさかのクリエイター目線で聴いてたんだ!?......改めて君って変なヤツだよね」

「それだけが取り柄ですから!」

 というか俺のようなゴキブリ人間にそれ以外に何の価値があると言うのだろうか。。。

 今は社会の最底辺変なヤツとして俺以外に最下位の人間を作らないということで、一定の需要を得ている。

 でも、それさえ出来なくなったら.........

 完全に終わりであるHAHAHAHA

「......君はかっこいいし、優しいしいっぱい良い所あると思うよ」

「けっ、人生勝ち組の陽キャから言われても哀れまれてるとしか思えねーよ」

「だから、急に辛辣になるのやめてよ!?...せっかく勇気絞り出したのに」

 千歌先輩は不満を訴えるかのように頬をぷくりと膨らませ、俺の襟をゆらゆらと揺さぶってきた。

 だが、急にハッとしたような表情を浮かべ手を止めてくる。

「......」

「どうしたんですか?」

「...君がこの部屋に来てくれて嬉し過ぎて言い忘れてた」

 千歌先輩はなぜかソファから立ち上がり、俺の正面に来て深々と頭を下げてきた。「さっきは勝手に君の家のこと口出ししちゃってごめん」

 まさか、そのことについて触れられるとは思っていなかった。

「頭を上げてください...そもそもあれは俺があの人たちに言い負かされたのが原因な訳ですし。。。それに、あれはどちらの肩を持つでもなくただ正式な場での議論を勧めてくれただけじゃないですか」

 そもそもこの件での一番の戦犯は、母親の幸せすら素直に応援できない出来の悪い息子である俺なのだ。

「それでもだよ。道理として君に助けを求められてすらいないのに、無関係な私があれこれ言うべきじゃなかったんだよ。本当にごめんね」

 ........どうしてこんなにも頭が良くて優しい人が俺みたいなゴキブリ人間のことが好きなのだろう。

 そして、なぜ俺はこんな人の告白の答えを伸ばし続け、さして自分の人生に影響しないような母親の再婚に深く悩んでいるのだろうか。

 .......俺が告白の件について考えていると、千歌先輩は何か決意したような表情を浮かべながら呟いた。

「...実は私の部屋の右隣の部屋にお母さんの連れ子の妹がいるんだよね」

「そうだったんですね...?」

 千歌先輩に里香以外に妹がいたなんて初耳である。

「でも、再婚して苗字変わったことが原因でいじめられちゃったみたいで......もう、一年くらい部屋に籠りっぱなしな感じなんだよね」

 なんで苗字が変わっただけでいじめるんだ...と一瞬思ったがいじめっ子からすれば苗字が変わった事は別にどうでもよく、いじめる理由を探していただけなのだろう。

「それに私も苗字変わってから里香と比べられるようになってさ。色々と思う所が合って。あと、シンプルに君への想いが爆発してあんなことしちゃった.......流石のお姉さんも反省だよ~」

 千歌先輩にここまで言わせたのなら、俺も後輩として.....そして、男として言わなければいけない事があるだろう。

「色々と教えてくれてありがとうございます........俺もすみません。告白の答え、この件が終わったら絶対に答えを出します」

「......そっか。うん!お姉さん、楽しみにしてるね!」

 この日、結局俺たちは深夜2時までロックについて語り明かしたのだった。


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 次回からまた展開が大きく変わるので、ぜひ!

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