夏川家で家出

 出汁から取るなど手間暇かけられ作られているからか、口に含むと忽ち幸せな風味が広がってくる味噌汁に、外はカリカリ中はジューシーな味噌カツ。

 鮮度が良く野菜本来の甘味が感じられるサラダ。

「....お、美味しいです!」

 あれから俺は千歌先輩と先輩のお母さんの三人で夕食を食べていた。

 何やら千歌先輩のお父さんはイギリスに出張に行っていて現在は不在のようだ。

 ........助かった。。。

 おそらく、もし千歌先輩のお父さんがいたら除菌されてジ‐エンドだっただろう。

「優くんは食わず嫌いがなくて偉いね~うちの旦那と千歌はピーマンとかナス食べてくれないんだぜ~」

「人生柄食わず嫌いをされてきたので、せめて自分は好き嫌いしないようにしてるんですよねHAHAHAHA」

「食わず嫌いされる側の視点だったんだ!?........そんなバックボーンがあったなんてお姉さん感動だよ」

 ちなみにこんなことを言っておきながら俺は椎茸が大の苦手である。

 別に味や触感が苦手なわけではない。

 むしろ好きな方である。

 だが、他のきのこと対して変わらないのに世間で過剰に嫌われている同志を食べることなど、ゴキブリ人間兼戸塚菌な俺には出来ないのだ。。。ぴえん

「...所で二人はどこまでいったの?」

 先輩のお母さんはニマニマとした笑みを浮かべながら、俺たちのことを交互に見つめてきた。

 どこまで......とはそういう意味でということだろう。

 この手の話題に疎い戸塚菌兼社会不適合者でもこれくらいは分かるのだ!えっへん

「......つ、付き合ってないのにそんなことしてるわけないじゃん...!」

「え~?一夜の過ちとか若い子ならあると思うんだけどな~」

「人生の過ちなら現在進行形で更新中なんですけどね~HAHAHA」

「君はほんんっっっとにブレないよね!?.......お姉さん、尊敬だよ」

 悪い意味で現状維持をして、枯れ葉のように朽ち果てていく。

 それが俺の人生における唯一の目標である!

 とはいえ、千歌先輩もこんな戸塚菌と破廉恥なことをしてると思われるのは流石に苦痛だろう。

 先輩想いで優しい戸塚菌こと俺は事情を話すことにした。

 だが、あくまでこの場の雰囲気を壊さない様に自虐めいてである。

 .........ふふっ、ついに俺の得意技の真価を発揮する時が訪れたか。。。

「嘘みたいな話なんですが、実は先輩と出掛けてる最中に母親と母親の彼氏に遭遇しちゃいまして」

 冒頭でも言ったが話に現実味がなさ過ぎて思わず、ドラマのプロットでも読んでいるかのような気分になった。

 それも駄作中の駄作である。

「なんかその場で俺が結婚に賛成するのかみたいな話になったので、助けてもらったんですよ。それで、空気が悪くなったので気分転換にお邪魔したみたいな感じです!まあ少なからずそれが嫌だと思ってる俺が悪いんですけどねHAHAHAHA」

 俺の『場の空気を凍らせる能力』が発動してしまったのか暫しの沈黙が訪れる。

 あれれ~wまた、俺なんかやっちゃいました??

 ちなみに俺の中学の時のあだ名はクラスのリア充から『あいつ絶対に生涯童貞だろ!』と嘲笑われていてため、暫定魔法使いである。

 きっと30まで頑張って生き抜いたらこんな修羅場を打破できるような大魔法を放てるようになるのだろうHAHAHAHA

「......」

 千歌先輩のお母さんはなぜかまるで黒曜石のような鮮やかで尽くしい瞳を潤ませ、俺の肩に手を載せてきた。

「......子供なんだから、わがまま言ってもいってもいいんだよ!まあ、わがまま放題して周りに迷惑かけまくってた私が言うのはあれだけどさ!」

「子供って言ってももう高校生ですけどね。それに母には母の人生がありますし」

「........くうぅ!なんて、いい子なの!うん!悪い子になろう!というかなれ!絶対にお母さんおうちに返さないから」

「そんな横暴な!?」

 助けを求めるべく、千歌先輩の方に目配せしても苦笑いしているだけ。。。

「冗談はさておき、おばさんも似たような境遇だから耳が痛いんだけど、君がしっかりし過ぎてるんじゃないかな?」

 俺がしっかり?

 自分とは対極過ぎる言葉に思わず首を傾げる。

「おばさんの個人的な意見だからあれだけど、突然会ったのにいきなり具体的な話をしてくるのは優くんならきっとどうにかしてくれるっていう確信があるからだと思うよ」

「...」

「まあ、おばさんはこの通り馬鹿だからよくわかんないんだけどさ、定期的にお互いに頭を冷やすぐらいの関係がちょうどいいんだと思うよ」

 俺への信頼の件は分からないが、今家に帰ってもまたあの話になる可能性が高いし、距離をいったん取った方が良いというのはその通りである。

「なら、お言葉に甘えていいですか?」

「うん!ってか、私らも昔は色々あったからさ余計なこと言っちゃったかも...ごめんね!」

「いえいえ、今までゴキブリとして扱われてきたので嬉しいかぎりです!HAHAHA」

 流石、千歌先輩のお母さんとでも言う所だろうか........

 見た目と口調はオラオラで怖いがめちゃくちゃいい人である。

「...今日泊まるなら、最近買ったCD一緒に聞こうよ!」

「おお~いいですね」

「夜更かしはいいけど、ワンナイトはしないようにな~」

「さっきからセクハラするのやめてくんない!?」

 かくして俺は人生で初めて自分の家以外に泊まることになったのだった。


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