母の彼氏と修羅場2

 夜の始まりを告げるように、派手な看板やキャッチのお兄さんたちが続々と現れ始めた午後7時半。

 華やかな街はより一層輝きを増し始め、ゴキブリ人間兼戸塚菌な俺はこの陽キャオーラによって消し炭されしまいそうである。

 ちなみにゴキブリは核だろうが、隕石が落ちようが消し炭にならずに生き残れるらしい。

 つまり、ゴキブリ人間は人類より優れているのだ!えっへん。

 まあ、俺なんてすでに社会の消し炭なので、意味がないのだがHAHAHA

「こ、これはね!」

 何故か、母さんは切羽詰まったように顔を歪め、縋りつくようにこちらを見つめてきた。

 そんな母さんを制止するように、恋人らしき男性が口を開く。

「......待って、さゆりさん。ここは僕から」

 高身長で肩幅が広く、顔もまさに二枚目と言った感じで、母さんがこの男性のことを好きになった理由が分かった気がする。

 それに歳も見たところ20代前半で、男の俺でも好きになれない要素が見つからない。

「さゆりさんと結婚を前提にお付き合いしている松坂 裕理と申します。歳は優さんと七つ違いの23歳です。よろしくお願いします」

 松坂さんが背中全体を見渡せるほど深々と頭を下げてくる。

 初めて見るこんな光景に僅かな困惑と戦慄を覚えていると、この会話で状況を察したのか千歌先輩が俺の右手を今までにないほど強く握ってきた。

 柔らかな感触と肌の弾力感がこれでもないぐらいに伝わってくる。

 ......おそらく、俺のことを心配してくれているのだろう。

「一応息子の戸塚 優と申します。まあ、この通り顔も似てなければ、頭の出来から運動力と何から何まで似ていないので本当に血縁関係にあるのかわからないんですけどね!ちなみに俺はコウノトリさんが送り先ミスった説を推してます!HAHAHAHA」

 俺のギャグが余程、寒かったのか沈黙が生まれる。

 ......以前も述べた気がするが、俺は『空気を重苦しく凍らせる程度の能力』を保有している悩める戸塚菌系能力者なのだ。

 ちなみに中学の自己紹介の時にこの能力を発動させ先生に『と、戸塚くんはユーモアセンスに富んでいて...お、面白いわねえ...!』って苦笑いされたぐらいである。

 その他の生徒に関して苦笑いすることもなく、ただただ無表情だったのは今でも忘れられない.......HAHAHA

 この雰囲気に耐えかねたのか、千歌先輩がおそらく重いであろう口を開いた。

「戸塚くんの友達の夏川 千歌と申します......私のわがままなのですが、この場にいていいでしょうか?彼のことをもっと知りたいんです.......!」

 千歌先輩はどこか決意に満ちたような清々しい笑みをこちらへ向け微笑んできた。

 心なしか、握る手がより強まっている気がする。

「いいですよ。ね、さゆりさん」

「優を思ってくれているなんて私としても嬉しさしかありませんし、どうぞ」

 紹介?を終えると松坂さんが改めてこちらを見つめてきた。

「優さん...いや、優くんはもしゆうりさんと僕が結婚するって言ったら祝福してくれるかな?」

「はい。というか、それは松坂さんと母さんの自由ですし、妹の意思次第ですね。俺としては別に健全な形であれば良いと思います」

 母さんと松坂さんの関係について気になったのも、思う所があるのも事実だ。

 だが、俺がどうこう言うのは違うだろう。

 母さんには母さんの人生があって幸せがあるのだ。

 持論だが、俺は親子は子供が自我を持った時点で『一心同体』から『赤の他人』になると思っている。

 父さんが俺なんかには勿体ない程に良い父親で死ぬまで一緒にいてくれただけで、それを他の人に求めるのは間違っているのだ。

「.......優は優しいから言わないけど、きっと嫌なのよね?...大好きなお父さんとの思い出を否定されたような感じがするんでしょ?...優は意外に顔に出やすいから分かっちゃったよ」

 .......図星だった。

 俺に取っての父親はあの人で十分なのだ。

 父さんに取って変わる存在が現れてしまえば、本当の意味で父さんが死んでしまう気がして.......

 それがたまらなく嫌なのだ。

 だが、ゴキブリ人間兼戸塚菌な俺とてそんな甘えが許されないことぐらい分かっている。

 父さんは死んでしまってて、いくら吉田に怒ろうが喚こうが何も変わらない。

 これからは本当の意味で自立しなければいけないことぐらい分かっているのだ。

 そんなことすら以前、千歌先輩に相談して気づいた俺が前に進んでいけるとは到底思えないが、それでもきっとやるしかないのだろう。

 父さんが死んだ時点で俺の人生は次のフェーズへと移行していたのだ。

 でも.......

 まるで歯に何か挟まっているかのような不鮮明な違和感と嫌悪感だけは今もなお消えずに、胸の中で悲鳴を上げていた。

 ぶっ壊れて喜怒哀楽があやふやになった今となっては真偽は不明だが、きっと俺はどう取り繕っても嫌なものは嫌のだろう。

 病気がちな父と俺たち兄妹をたった一人で養ってくれて、今もこうして息子のことを思ってくれる母の幸せを拒絶するなんて、我ながらゴキブリ人間を極め過ぎていて笑ってしまう。

「...勿論、最初は受け入れられないかもしれない。けどね、お母さんにとっては色々と辛かった時に彼が支えてくれたから今があるって言うか.......きっと松坂さんなら、あの人を想うあなたの気持ちも受け入れてくれると思うの......だから、家族みんなで幸せになりましょ?...ね?」

「......息子さんにそれを言うのはズルいと思います」

 より一層煌びやかな光が強まったこの街に千歌先輩の冷たくでもどこか心強い、芯のある声が響き渡ったのだった。


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