映画と悲鳴

「お前の心臓を抉り出してやろうかああ!!!!!!!!!!!」

「......」

 真っ暗がりな劇場を照らす大画面のスクリーン。

 思わずびくりとしてしまう大音量なゾンビの叫び声。

 どれも家では味わえない、映画館ならではのもので面白い!面白いのだが......

 こええええええええええええええええええ!

 ........我ながら、ゴキブリ人間兼戸塚菌からホラー耐性を取ったら何が残るんだ、、、と思うがそれでも怖いものは怖いのだ。

 というか、内容自体は正直何とも思わない。

 胸糞展開も人生が胸糞過ぎるからOKだし、出血演出も余裕である。

 だが、この心臓に悪い演出だけは無理なのだ...!

 しかし、実のことを言うと嬉しさもある。

 壊れてしまった今もなお、動物的な恐怖心は残っていたのだ。

 ......俺が情けなく身体をビクつかせていると、千歌先輩が手を握ってきた。

 自分より小さく、細くしなやかで暖かい感覚が手のひらいっぱいに広がる。

 千歌先輩は他のお客さんの邪魔にならないように耳打ちする形で呟いた。

「......お姉さんがついてるから大丈夫だよ」

「けっ、自分は怖くないからって哀れみやがって。何様だよ」

「まさかのここでも辛辣!?......これは環境による技ありだね。お姉さん感動したかも...!」

 冗談はさておき、先輩のおかげで少し恐怖心が和らいだ気がする。

 誰かも温もりを感じることで、自分がマジョリティ側であると錯覚し、気が大きくなる。

 どうやら、子悪党体質まゴキブリ人間には合っていたようだ!HAHAHA

 例えるなら、『赤信号、みんなで渡れば怖くない!』である。

 ......それから何度かチビリそうになりながらも何とか耐え抜き、どこか寂しさを覚えるエンドロールが流れ終わると、とうとう館内が明かりで照らされた。

 ......やったぞ。。。

 俺はあのゾンビ共に勝ったんだ...!

 今まで何もなし遂げた事がない人生だったからか、妙な達成感に身が包まれていた。

「ストーリーはめちゃくちゃ面白かったですね!」

「だね!......でも、まさか君にあんな可愛い所があるなんてな~」

「か、可愛い...?先輩の目なんかの病気なんじゃないですか...?いいお医者さん紹介しますよ。。。本当に心配です!」

「まさかの哀れみ!?......自虐と辛辣以外にもパターンあったんだね...!」

 俺はゴキブリ人間、戸塚菌、そして社会不適合者エキスパートの3つの顔を併せ持つ戸塚 優なのだ。

 そんじゃそこらのヤツ《まともな人間》と一緒にされちゃ困る。

「君はどのシーンが好き?私はゾンビになった彼女が自我を取り戻す所かな~」

 なんて話しているうちにも続々と観客たちが映画館を後にし始めた。

「俺はゾンビが噛ませのでムカつくヤツの顔をかぶりと食いちぎった所ですかね?同族嫌悪したからかな?HAHAHA」

「捻くれた優くんらしいというか何というか...」

「所で、いつまで俺の手を握るつもりですか?」

 もし、こんな所を学校のやつに見られた暁には千歌先輩の学校生活が終了してしまうだろう。

 それに今は学校内では『優しい優しい千歌先輩が多少は面識がある頭のおかしいバイト先の後輩を助けた』と言う認識なのだ。

 色々と勘違いされるのでは...?と一時は危惧していたが、学校のやつもまさかこんな頭のおかしい戸塚菌と千歌先輩が友人関係にあるだなんて思わなかったのだろう。

 だが、こんな所を見られたらすべてが水の泡になってしまう。

 それだけは避けたい!

 ......今はいいかもしれない。

 だが、もし千歌先輩が俺以外の男の人を好きになった時にゴキブリ人間と仲良くしていたなんて心象はよくないだろう。

 そう。

 俺はこの世の汚物兼人類の天敵なのだ!HAHAHA

「......だめ?」

「暑いですし、これが学校の奴らにバレたら詰みますよ.....それにお腹が空いてきたので、飯にしませんか?」

「......ばか」

この時の俺はこの後、またも修羅場に巻き込まれてしまうとは思いもせず、昼食の心躍らせていたのだった。



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