痴情のもつれとデートの約束


 翌日の昼、千歌先輩から呼び出しを受けた俺は駅前のファミレスに来ていた。

 時間帯が時間帯だからか店内は学生から社会人まで老若男女問わず、様々な人で溢れかえっている。

 ちなみに母さんは急遽仕事が出来たとのことで、朝すぐに家を出てしまったのでまだ何も話せていない。

 正直、話そうと思えば話せたのかもしれないが、人生柄こういう経験が不足している為、なんと切り出せばいいのかわからなかった...

 ......どうも!人付き合いが下手くそ過ぎる現代社会が生み出してしまった悲しきモンスター、ゴキブリ人間兼戸塚菌です!

 よく世間では有名人が「私、コミュ障なんで~」なんて自虐ネタで寒い笑いを取っているが、『本物』から言わせればあんなの偽物である。

ガチのコミュ障が自虐ネタなんてしようものならば、それは事実なのだから笑いにすらならない。

......ちなみに中学の時の体験談である。

あの時の女子の困ったような笑みはいつになっても忘れられない。。。

「......で?昨日の女の子は誰?」

 千歌先輩は瞳を潤ませ、こちらを強く見つめながら問いかけてきた。

 まるで宝石のように燦々と煌めいている碧色の瞳に吸い込まれそうになる。

「妹です!」

「......ふぅ~ん?」

 千歌先輩は納得できないのかどこか歯切れが悪そうに首を傾げた。

 そんな仕草さえも様になっているのだから、やはり千歌先輩は美人なのだろう。

 本当になぜこの人が男子の中でも明らかに地雷である俺の事が好きなのかわからない。

「先輩、前にりこの写真見てませんでしたっけ?」

 ......記憶力がダチョウより悪いことに定評があるゴキブリ人間の記憶だからあれだが、以前居酒屋で見せた気がする。

 まあ、色々な感情を忘れてしまった俺の言うことなんて何の説得力もなければ、信憑性もないのだが。。。HAHA

「それはそうなんだけど!し、正直あの時は......嫉妬で顔とか見れなかったっていうか...美人さんならよりショックだし」

 なるほど。。。

 千歌先輩も乙女なのだ。

 俺みたいな故障品とは違い、色々と思う所が合ったのだろう。

 これなら昨日のうちに誤解を解いておいた方が良かったのかもしれない。

 長年のぼっち生活が招いた結果とは言え、反省である。。。

「これ、昨日妹と撮った写真です」

 俺はスマホでフォトアプリを開き、先輩に差し出した。

「......ほ、ほんとだ。この前見せてくれたくれた子と同じだね!...よかった」

 ちなみに写真の内容はと言うと、服を買った帰りにりことサーティーワンで一緒にクレープを食べた時のものである。

 ......正直、店の雰囲気が全体にキャピキャピとしていてイモ臭い俺は完全に浮いていたが、よくよく考えたらそれはいつもの事なので今度から一人でクレープを食いに行くのもありかもしれない。

「...ごめんね?面倒くさい女で...お姉さん結構、反省してる」

「俺こそもっと早く説明すれば良かったのに、すみません」

 完全に母の件に集中し過ぎて、忘れていた。

 友達としても、後輩としても失格である。

「でも、他の子に取られる可能性はあるんだよね...。うん!これからは君を取られない様に頑張らないと......!」

 やはり千歌先輩は良めちゃくちゃいい人ではあるが、それ以上に変なヤツだ。

 こんなヤツを好きになる女子なんて世界中探しても先輩以外いないだろう。

 そもそも俺はゴキブリ人間かつ感染力が高い凶悪な戸塚菌で、いわば人間の天敵なのだ!HAHAHAウケる

「けっ、モテない俺への皮肉かよ。流石、先輩頭が切れますね!」

「まさかのここで唐突な辛辣!?しかも今回は最後に皮肉が入ってて芸術点が高いね!.......お姉さん軽く感動しちゃった」

取り合えず誤解は解けたので俺がコーラを飲んでいると、先輩はわざとらしく悲しげな表情を浮かべ、俺の制服の袖をくいくいと引っ張て来た。

「......でも、傷ついたなあ。君がデートしてくれたら、この心の傷が癒えるにのなあ」

明らかに棒読みの猿芝居だが、こう言われたら流石の戸塚菌と言えど首を縦に振るしかない。

「わかりました。来週の土曜日でどうですか?」

「...あれ?もしかしてお姉さんとデート行きたいってこと?え~どうしよっかな?え~...お姉さん困っちゃうな~」

「なら、この話はなかったってことで...」

「......いじわる。お姉さんにも花持たせよ!嫉妬してデート迫ってる恥ずかしい子みたいじゃん...!まあ、事実なんだけどさ...!わかりました!デートしてください!お願いします~!」

かくして俺の人生初のデートの予定が取り決まったのだった。



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