【悲報】妹、登場して修羅場になってしまう

 昨夜千歌先輩に相談したことを踏まえ、取り合えず裏でこそこそ邪推するよりは母にこの件について話してみることが一番ではないかと思い、母の仕事が休みである明日にでも言うことにした。

 だが、今日は待ちに待った土曜日!

 ということで残酷でくだらない現実は忘れ、俺はいつも通りリビングのソファにて惰眠を貪っていた。

「.......さ、最高過ぎる」

 こうして何の束縛もなくだらけている瞬間だけは生を実感できる気がする。

 そう、俺は自他ともに認める社会不適合者ではあるが休息はしっかり取れるのだ!

 えっへん。

 .........それに夢を見ている瞬間だけは自分がゴキブリ人間兼戸塚菌だって忘れられるからねHAHAHAHA

「...疲れた」

 なんて、横になりながら項垂れていると背後から気配を感じた。

 振り返ろうとしたその刹那、肩を物凄い強さで揺さぶられる。

 ........こんなことをするのはヤツ《りこ》しかいない。

「お兄ちゃん!今からショッピングいこーぜ!」

 犬のようにころころとしている大きな瞳。

 スラリと高い鼻に煌びやかでお洒落なピアス。

 ぷっくりとした唇に最近、染め直したのか茶髪な髪。

 そう、このどこからどう見ても陽キャな少女が我がりこである。

 ちなみにりこには日頃から『俺が負のDNAを背負ったおかげで今の完璧なお前がいるんだからな』とドヤ顔で語っている。

 あれっ?変だな...?目からお水が。。。HAHAHA......

「嫌だ」

「は?なんで?」

「あのな。お兄ちゃんは日頃から社会の最底辺としての務めを全うしようと精神削ってるんだ。自己研鑽につぐ自己研鑽だぞ。だから、そんな俺のおかげでお前ら陽キャの自己肯定感が上がってるんだから今日ぐらいは休ませてくれHAHA.......」

「.......あのね~そんな事言ってるからいつまで経っても彼女できないんだよ?青春しよーぜ!」

 りこは何故か得意顔な面持ちで、チラシのような薄い紙をふらふらと揺らしながら差し出してきた。

 そこには何やらデカデカとした赤い見出しで『今ならメンズ服30%OFF!!!』と書かれている。

 どうやらみんなお馴染みのファッションショップである、ユニ〇ロのチラシのようだ。

「...お兄ちゃん部屋義はずっと中学の時のジャージだし、外でも制服しか着ないじゃん!そんなの勿体ないし、できる彼女もできないよ!」

彼女の件については完全に大きなお世話だが、よく見るとチラシはマッキーペンで重要箇所らしき場所にアンダーラインが引かれている。

おそらくこれは単なるその場の思いつきではなく、俺のことを思って前々から計画を立ててくれていたのだろう。

......それを無下にするのはゴキブリ人間兼戸塚菌である以前に兄貴として終わりな気がした。

「...行くか」

俺のこの一言にりこはぱぁと表情を明るくさせた。

ゴキブリ人間兼戸塚菌の妹という苦行を日々耐えてくれているのだ。

たまにはこうして妹孝行するのもまた一興だろう。

「やったぜー!」

ということで、俺はすぐ制服に着替え家を後にした。

.......外はまさにショッピング日和の快晴だった。

というか熱い。

ちにそう。

おうちで音楽聞きたい。

........だが、俺は泣く子も黙るゴキブリ人間である。

この程度の温度の変化への適応など容易いのだ!

えっへん。

閑静な住宅街を抜けると、駅前の威圧感がる高層ビルのッ数々が見えてきた。

.......これ日照権侵害してないのかな?

まあ、ゴキブリ人間の俺には関係ない話なのだが。

ちなみに今回行くユニ〇ロは駅の中に併設されている。

だんだんと人が多くなってきた為、人をかき分けるように進んでいく。

人込みをかき分け、安堵していると何だか見覚えのある女性が駅前のベンチに座っていた。

黄金に輝く艶めかしい髪にガラス細工のように端正な顔立ち。

その気がなくても思わず目に入ってしまう豊かな胸。

......間違いない。

千歌先輩だ!

向こうも俺に気が付いたのか包容力溢れる笑みを浮かべ、こちらへ手を振ってくる。

「.......ごめん。お兄ちゃん靴紐、解けちゃって。ちょっとつかまるね」

「ああ」

りこが俺に抱き着くような形で靴紐を結び始める。

「うわぁ、何か紐取れちゃった...新しい靴も買わないと」

なんて会話をしていると、千歌先輩は何か勘違いしたのかそれはそれは冷たい思わず身震いしてしまうような、物凄い眼力で睨んできた。

........怖いあと怖い。

かくして多大な誤解が生まれたままショッピングが始まったのだった。


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