ぼっちの苦悩と母親

 バイト終わり、久しぶりに例の居酒屋に来ていた。

 店内は相変わらず仕事終わりのサラリーマンやOLで溢れており、いかにも学生という感じの人は俺たち以外見受けられない。

 つまるところゴキブリ人間兼戸塚菌で同世代がリア充しているのを見るのが何より苦痛な俺に取っては最高のディナースポットなのだ!

 ......ああ、落ち着く。。。

「なんか久しぶりな感じがするね~」

 お気に入りのホルモンが届くのをまだかまだかと待ちわびている千歌先輩がどこか感慨深そうに面持ちで呟いた。

 確かにティッシュのようにうっっっすい日々を過ごしていた俺に取って、ここ数週間はまさに怒涛の日々だった。

「ですね~あっ、でも俺は脳が精神的苦痛に耐えかねたのか記憶が朧気になっているのでそうでもないかもしれないですね!これぞ、ぼっちの極意です!」

「何その悲しい極意!?......お姉さんとこれからも楽しい思い出作ろうね!」

 何だか先輩に哀れまれている気がするが、人から施しを受けるのは最&高なので気にしないことにした。

 そう。

 俺の座右の銘は知らぬが花である。

 無知は罪であると同時にこの世知辛い世の中を唯一面白おかしく生きることが出来る術でもあるのだ。

 ......つまりは飯奢られるのも施しも最高ということである。

「先輩、相談があります!」

「...どうしたの藪から棒に?君からそういうの珍しいじゃん!......お姉さん嬉しいかも!」

 ということで、一週間前の母と男の件について相談することにした。

 あの一件以来、千歌先輩から何か合ったら随時報告するようにと言われていたからである。

 それにゴキブリ人間兼戸塚菌が頑張って考えるより頭のいい千歌先輩の助言をもらった方が事はよい方向へと進むだろう。

「女子って恋愛感情がなくても男子の肩に抱き着いたり、頭撫でられて頬を赤らめたりすますかね?」

 恋愛経験皆無OF皆無の俺に取って女子とは言わば未知の生物だ。

 ならば、彼女らが何を思い何を願うのか当事者に聞いてしまうのが一番早い。

「......な、なんでそんなこと聞くの?」

 先輩は何やら顔を青ざめさせ俯きだした。

 ゴキブリ人間な俺にはなぜ恋愛相談でなぜこんな顔を青ざめさせ、悶えるのかわからないがきっと意味があるポーズなのだろう。

 ......数年前まで『キュンです!』ってあったよね。

 そんなナウでヤングなことも知っているゴキブリ人間はまだ時代に取り残さていなかったのかもしれない。

 えっへん!

「千歌先輩は女子ですし、この手の相談にも慣れているかなと思いまして」

「そういうことを聞いてるんじゃないし!」

 先輩は物凄い力で俺の腕をぶらぶらと揺さぶってきた。

 最近、ツッコミのキレがより上がったのか、何だか先輩がアグレッシブになってきた気がする。

「.......君が他の女の子にそういうえっちなことされたんじゃないの?」

 俺が?そもそも絶賛孤立中の俺にそんなことをしてくる命知らずな女子なんてそうそういないだろう。

 それに俺はゴキブリである。

 つまり人類共通の敵。

 そんな俺がモテる世界線が合ったというのならばこの世界もまだ捨てたものではのかもしれない。

「けっ、非モテ陰キャの俺への当てつけかよ」

「唐突な辛辣!?...って今はそういうのじゃないから!......で、どうなの?」

「絶賛、栄光ある孤立中なので女子は目すら合わせてくれませんね...」

 ぴえぇぇぇぇぇん!

 しかも吉田との小競り合いで関わっちゃいけないやつレッテルを前以上に貼られて悪化している気がする。。。

 まあ、俺は戸塚菌。

 無性生殖で個体数を増やせるから別にいいのだ!

「...そっか」

 何やら安堵のため息を吐いた先輩に俺は悩みの全貌を打ち明けたのだった。


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