かつてない程の修羅場と怒り2

 壁に突き飛ばされた吉田は突然のことだったからか、顔を青ざめさせ怯えたような表情を浮かべながら身体を震わせていた。

「さっきの言葉、取り消せ」

「..絶対に嫌だね。それにこれは暴力じゃないか?これが学校側にバレたら君、退学かもね~」

 吉田は俺のことを突き飛ばし返し、俺の攻撃に余程腹が立ったのか武者震いしながら呟いた。

「生憎、俺の人生なんて疾うの昔に終わってるんだよ。チクるなり何なりすればいい」

 だが、俺はこいつの助けが来るまで何度も何度も殴り続けるだろう。

 それは精神、肉体問わずだ。

 例え周りからリンチにされようが、身体の節々から血が出ようがそれは変わらない。

 俺は力の限り拳を握り、突き飛ばされた分吉田に近づいて行った。

「な...なあ、みんなこいつが悪いよな!?」

「当たり前じゃん!吉田くんは悪くないよ!私、先生呼んでくるね」

「ってかマジでこいつきしょいよな」

「なんでこんな異常者がこの学校に入学できたんだろうね~」

 クラスメイトから突き刺されるかの如く向けられる軽蔑の意が込められた視線。

 人の不幸は蜜の味なのかここからでもハッキリ分かるほどに聞こえてくる笑い声。

 今はこんな最低最悪なオーディエンスも憎悪を増長させる最高のスパイスでしかなかった。

 .......殴っただけでは気が済まない。

 もっと一生涯の傷を負わせなければ。

 俺はある仕掛けを起動した。

 それから戦意を相手に示す為、首を鳴らし拳を前へ突き出した。

するうと春風が血相を変えて止めに入ってくる。

「......待って!ごめんね!暴力はもうやめよ?...私もあいつらのこと先生に証言するからね?......君もまた傷ついちゃうよ」

 生憎、俺はもう傷つき尽くした為、傷つくことはない。

「別に誰が何しようが個人の自由だからよくない?...そもそも言い方は悪いけど、お前にだけは言われたくないね」

 別に春風に何の恨みもなければ、何の怒りもなにのだがこうでも言っておけば黙るだろう。

「.......そっか」

 案の定、黙ってくれたので良かった。

 懸念材料が解消されたということで、俺は吉田へと急速に間合いを詰めていった。

「陰キャが舐めんなよ!」

 吉田の宙を裂くような猛烈な右ストレートを避け、吉田の腹に全力の左ストレートを入れようとしたその刹那、他の男子が吉田の応援にきて俺は羽交い絞めする形で拘束されてしまう。

 その男子は大柄で振りほどこうと思っても振りほどけない。

「陰キャくんは友達がいないことが裏目に出たねぇ」

 吉田はそれはそれはおかしそうに満面の笑みを浮かべ、抵抗できない俺の腹に重みが最大限掛かった前蹴りを入れてくる。

 ちなみに春風はもう止められないと察したのか教員を呼びに行っていた。

「おい、俺の父親は馬鹿親でしたって謝れよ」

「嫌だね」

 そう返すと吉田は遠慮なく殴ってきた。

 リズムを刻むように何度も何度も。

 クラスメイトの笑い声はコーラスのようだった。

 だが、これでいい。

 あいつらの人生最悪の不幸は近づいているのだ。

 俺は殴られながらもズボンのベルトを取り、下した。

 ワイシャツも開いている手で無理やりこじ開けたせいか、ボタンがそこら一辺に散乱していく。

「きゃー!.......こいつ何やってるの?」

「え?なんで.......脱いでるのきしょ」

「ホント頭おかしいんだね」

 教室では女子を中心に凍える様に冷たい声が聞こえてきた。

「安心しろみんな!俺がこいつをボコすからさ」

 吉田はというと正義の味方さながらのセリフを吐き、ニタニタとした笑みを浮かべながらまた殴ってきた。

 ......やはり集団は人を馬鹿にする。

 俺は予め、用意していた仕掛けを発動させた。

 この異質な状況で尚且つ人の声がうるさすぎた為か誰にも気づかれていないようだった。

 目的は果たしたものの、攻撃は一向になり止む気配がしない。

 はて、どうしようかと思っているとこの狂っている教室に何かが弾いたような爽快な音がこの教室に鳴り響いた。

 それと同時に吉田の殴りや蹴りがピタリと収まる。

 何が起こったのかと吉田の方を見ると吉田の白くて綺麗な肌が赤く染まっていた。

「最低だね」

 ふとその隣を見ると見慣れた少女の姿があった。

「...千歌先輩なんで」

 その正体はバイト先の先輩だった。


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