先輩と温もり

 あの後、コンビニで肉まんを奢ってもらった俺は千歌先輩とすぐそこの公園で少し遅い晩御飯を食べていた。

 現在時刻は21時。

 良い子はすぐに家に帰らないといけない時間だが、生憎俺は人ですらない戸塚菌兼ゴキブリなので慈悲深き神は許してくれるだろう。

 .......ちなみに、この世の中で一番冷酷なのは間違いなく人である。

 ヒトコワイ。

 ユルセナイ。。。

「おいひ~」

 ちなみに先輩はと言うと隣のベンチで何だか上機嫌そうに鼻歌を歌いながら肉まんを頬張っている。

「......君ってホントに変なやつだよね」

「めちゃくちゃよく言われます」

「ホントだよ。普通、あんなに可愛い子に誘われたらホイホイついていくのに......ばか」

 生憎、俺はコバエではないのでホイホイはついていかない。

 それがゴキブリとしての誇りである!

 えっへん。

「えいっ!」

 先輩が空いている左手で俺の右手を握ってきた。

 細くしなやかで、自分の物よりはるかに頼りない。

 そんな先輩の手のえも言えないような感触が左手全体に広がる。

「........君の手、すごい温かい」

「どうしたんですか?何か毒でも盛られましたか!?常人はゴキブリに触れたくないんですよ?」

「相変わらずの自虐だね!?さ、寒いから暖を取ってるんだよ...」

 確かに先ほどから肌を刺すような夜風が止めどなく吹いている。

「なら、食べてる最中ですけど、風邪を引いても困りますしもう帰りますか?」

「......優くんのいじわる。食べ終わるまではいよ...?」

 そういうと先輩は握る手を先ほどより強めてくる。

 密着度がより増し、まるで一体化したようなそんな感覚になった。

 戸塚菌に汚染されており、人体に悪影響を及ぼしかねないこの手に自ら握りそれを強めるだなんてやはり先輩も変なヤツである。

「わかりました」

「......やった!」

 先輩も顔はゆでだこのように真っ赤に染まっている。

 ...それだけ、寒いのだろう。

 俺の人生は常に冷え冷えの氷点下。

 ならば、そんな寒さを熟知した俺が後輩として千歌先輩を助けなければいけない。

 俺はこのままでいることにした。

「今日は助けてくれてありがとね?すごく嬉しかった...」

「助けたって言ってもあんな卑怯な方法ですけどね」

「そんなことないよ.......かっこよかったよ」

 俺がかっこいい...おそらく対極の言葉だろう。

「先輩ボケまでできるんですねウケる!HAHAHAHA」

「......ばか」

 肉まんを結局食べえるまで俺たちはこのまま手を握り合っていたのだった。



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