第25話 リシュリューの弱点
松田の命令で、大和の全主砲一五門が一斉に放たれた。
砲口から吹き出す炎に大和の船体は輝き、空に向かって飛び出した砲弾は、リシュリューに降り注ぐ。
林立する水柱の中で、リシュリューは大和の存在を思い出し、主砲を旋回させて迎え撃つ。
しかし戦闘は大和の方が有利だった。
単純に主砲の数が多いこともあったが、それだけではなかった。
「連中の発砲速度が遅いな」
時計を見ながら松田が言った。
リシュリューの発砲間隔を測定していたが、明らかに大和より遅い。
大和の倍、一分ほどの発砲間隔だった。
「揚弾機が二門に一つだけだからな」
珍しく宇垣が呟いた。
砲術の専門家である宇垣は、リシュリューの弱点を良く分かっていた。
六連装で主砲塔を小さくすることに成功したリシュリューだったが、代償が伴った。
縦置きにして狭い主砲塔に主砲を六門載せても、弾を引き上げるには狭い旋回部を通らなくてはならない。
本来なら一門毎に一基、合計六基の揚弾機――船体の弾薬庫から砲塔の砲まで弾を引き上げる機械が必要だ。
だが、スペースの関係上、狭い旋回部には三基分の揚弾機しか搭載する事が出来なかった。
そのため上下二連の主砲毎に一基で主砲二門分の砲弾を供給した。
結果、揚弾機がボトルネックになり装填速度が低下してしまったのだ。
通常なら電力で揚弾装填が行われ自由角装填方式を用いたリシュリューの主砲は毎分二発撃てる。
しかし揚弾機が一基しかないため、揚弾に倍の時間が掛かり一分間に一発しか撃てない。
一方の大和は一門当たり毎分一.五発。
一分当たりリシュリューが一二発しか撃てないのに対して大和は二〇発以上も撃てる。
戦闘力の違いは明らかだった。
投射量が多いこと、撃てる砲弾の数が多いことは確率が的中する機会を増大させる。
数発の三〇サンチ砲弾がリシュリューに命中したのも投射量のお陰だ。
その内の一発がとんでもない幸運を招いたことも、投射量のお陰だった。
偶然にもリシュリューの主砲塔の天蓋と砲弾の角度が垂直となり、全ての運動エネルギーが装甲に集中した結果、三〇サンチ砲弾は装甲を貫き砲塔内で爆発した。
「主砲塔に命中! 爆発発生!」
見張りの報告に大和内で歓声が上がった。
丁度装填中の装薬に引火したこともあり派手な火柱と煙を噴き上げ、誰の目にも損害を与えたのは明らかだったからだ。
この時点で誰もが勝利を確信したのも無理はない。
しかし、リシュリューは終わっていなかった。
直後に装填を完了した残り一〇門が、一斉射を放ってきたのだ。
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