第24話 巡洋艦キラー
ロンドン軍縮条約の前、ワシントン軍縮条約で戦艦と重巡洋艦の定義について取り決めがなされた。
戦艦は一六インチ――四〇サンチ以下、重巡洋艦は八インチ――二〇サンチ以下だ。
ロンドン条約により戦艦は一二インチ――三〇サンチ砲以下に制限されたが、重巡洋艦は八インチのまま。
戦艦と重巡の戦力差は縮まったように思えた。
しかし、それは大きな間違いだ。
口径は一.五倍になっているが、重量、運動エンルギーは光景の三乗に比例する。
一.五倍の三乗、二.二五倍。
戦艦の一二インチは重巡が搭載する八インチ砲の倍の攻撃力があるのだ。
そして重巡の一隻デボンシャーは八インチ連装砲四基、合計八門しかない。
一二門の一二インチ砲を持つリシュリューに比べて劣勢だ。
いかに勇ましくリシュリューに突撃し攻撃を放っても分厚い装甲の前に、デボンシャーの砲弾は弾かれてしまった。
そこへリシュリューが反撃した。
元々、格下の艦艇を破壊するために積まれている主砲だ。
十二発の一二インチ砲が雨のように降り注ぎ、一発が不幸にもデボンシャーに命中した。
元々戦艦より防御に劣るが、イギリス重巡はイギリス特有の事情により更に装甲が薄い。
世界各地に植民地を持つイギリスは、その管理と通商路防衛のために巡洋艦を整備してきた。
重巡であっても同じで、遠くの植民地へ巡航するため、居住性と長期の行動力を与えるため、居住区が広く、各種消耗品を大量に保管する倉庫が大きな割合を占めている。
本来なら重量増加で対応するが、ワシントン条約の基準、一万トン以内を守る為、重量削減として防御力、装甲が削られた。
砲塔さえ一インチの装甲に過ぎず、弾薬庫でさえ最大四インチしかないのだ。
あまりにも薄すぎて、格下の軽巡は元より駆逐艦の主砲さえ耐えられないとされ、追加装甲の取り付けが決まっていた。
デボンシャーもダカールの作戦が終わり次第、工事に入る予定だったが、その前に一二インチ砲の直撃を受けてしまった。
四インチの装甲など一二インチ砲弾の前には紙にも等しい。
容易く撃ち抜かれ、弾薬庫を貫通して、キールを粉砕して船底を飛び出したところでようやく爆発した。
それが、デボンシャーの不幸だった。
艦底爆発となった砲弾は容易くデボンシャーの船体を軋ませる。
爆発で出来た気泡に海水が殺到して余った勢いでデボンシャーの船体を貫き切断してしまった。
薄い装甲もあって強度が弱いデボンシャーは至る所で破孔が発生し急速に浸水。
被弾から一分もせずに、沈没してしまった。
三〇サンチ砲戦艦が重巡に対して優勢である事を証明し、その現実を見せつけられた残り二隻の重巡は反転して退避していった。
彼等の決断は正しい。
しかしデボンシャーの献身は無駄ではなかった。
デボンシャーへの攻撃に気を取られたリシュリューに向かって大和は最良の射撃位置に付くことが出来た。
この好機を松田は逃さなかった。
「主砲! 全門斉射!」
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