最終話 今度は幸せになろう
キリちゃす事件は、あっという間に風化していった。
情報が過ぎ去る時間は早すぎる。
退魔師団体『弥生の月』解体の後、
が、まるで信者は増えていない。動画もやっているようだが、再生数はたったの八である。
元トップだった
そのニュースを付けながら、オレのいきつけである食堂では、軽い祝勝会が開かれた。
「じゃじゃーん」
看板娘の
「おめでとうございます」
「おおきにー。
「お祝いですから。カオルもいますし」
オレは、お腹の大きい緋奈子の側に寄り添っている。緋奈子の服装も、いつものパンツスーツではない。妊婦用のワンピースだ。
「でも、うらやましいなー。
|福本が、オレたちを茶化す。
あの事件の後すぐ、オレと緋奈子は結婚した。
緋奈子が「子どもが欲しい」と言い出したのだ。寝込みまで襲われたときは、どうしようかと思ったが。所帯を持てば、ロシアに帰ることもなかろうと、
まあ、オレも悪い気はしないが。
「あー。ボクにもいいお嫁さんできないかなー」
「ここにおるやん?」
ツインテールをぴょこんとハネさせながら、弓月ちゃんがアピールしてきた。
しかし、「はあ」と、福本は溜息をつくだけ。
そういうところだぞ、福本よ。
「う……」
急に、緋奈子がうめきだす。
「き、来ました」
「あわわわわ」
数々のスラッシャーを退治してきたオレでも、破水した妊婦まではどうすればいいかわからない。
弓月ちゃんが急いで救急車を呼び、事なきを得る。
二時間後、無事に子どもは生まれた。双子である。男の子が先に生まれて、次に女のコだ。
「よかったなあ。無事でよかった」
「大げさです、カオル」
「だって初産で双子だぜ? 怖いっての」
「名前を付けましょう。といっても、一緒に考えましたよね」
兄は
魔王の憑依先である男と、死後魔王の力を得たキリちゃすが、転生したとオレたちは考えている。
「まさか、ワタシの子として生まれてくるとは」
「いや、そんな気はしてきたぜ。お前って、半分神様じゃん」
医者から「双子だ」と聞かされたとき、運命を感じた。
それは、緋奈子も同じだったという。
魔王に取り込まれた者は、普通に死ねない。どこか、得体のしれないトコロをさまよう。
だがそれは、生まれ変わるかもしれないという可能性もはらんでいた。
オレたちは、その可能性を信じたまで。
「今度は幸せになろうぜ。耀、キリカ」
オレは、二人のほっぺに指を当てる。
二人が、指を握ってきた。
(完)
オカルト刑事《デカ》 ~スラッシャーと化したヘラギャル VS 百人の退魔師~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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