最終話 今度は幸せになろう

 キリちゃす事件は、あっという間に風化していった。


 情報が過ぎ去る時間は早すぎる。


 退魔師団体『弥生の月』解体の後、斗弥生ケヤキ 天鐘テンショウの小間使いだった村田ムラタが関連する新興宗教を立ち上げた。

 が、まるで信者は増えていない。動画もやっているようだが、再生数はたったの八である。


 元トップだった尚純ナオズミは、すべての責任をとって服役した。だが今日、獄中で死んだという。

 

 そのニュースを付けながら、オレのいきつけである食堂では、軽い祝勝会が開かれた。


「じゃじゃーん」


 看板娘の弓月ユヅキちゃんが、卒業証書と合格通知を、ダブルで見せる。地元の大学の法学部に合格したのだ。


「おめでとうございます」

「おおきにー。緋奈子ヒナコさん! 身重やのにきてくれはって! もう予定日やん!」

「お祝いですから。カオルもいますし」


 オレは、お腹の大きい緋奈子の側に寄り添っている。緋奈子の服装も、いつものパンツスーツではない。妊婦用のワンピースだ。


「でも、うらやましいなー。青嶋アオシマ先輩が、こんな美人の奥さんをゲットなんて」


 |福本が、オレたちを茶化す。


 あの事件の後すぐ、オレと緋奈子は結婚した。


 緋奈子が「子どもが欲しい」と言い出したのだ。寝込みまで襲われたときは、どうしようかと思ったが。所帯を持てば、ロシアに帰ることもなかろうと、千石センゴク署長から提案されたのが。名案があるって言っていたが、それが「既成事実を作ること」だったとは。まったく。


 まあ、オレも悪い気はしないが。


「あー。ボクにもいいお嫁さんできないかなー」

「ここにおるやん?」


 ツインテールをぴょこんとハネさせながら、弓月ちゃんがアピールしてきた。


 しかし、「はあ」と、福本は溜息をつくだけ。


 そういうところだぞ、福本よ。


「う……」


 急に、緋奈子がうめきだす。


「き、来ました」

「あわわわわ」


 数々のスラッシャーを退治してきたオレでも、破水した妊婦まではどうすればいいかわからない。


 弓月ちゃんが急いで救急車を呼び、事なきを得る。


 二時間後、無事に子どもは生まれた。双子である。男の子が先に生まれて、次に女のコだ。


「よかったなあ。無事でよかった」

「大げさです、カオル」

「だって初産で双子だぜ? 怖いっての」

「名前を付けましょう。といっても、一緒に考えましたよね」


 兄は耀ヨウで、妹はキリカだ。


 魔王の憑依先である男と、死後魔王の力を得たキリちゃすが、転生したとオレたちは考えている。


「まさか、ワタシの子として生まれてくるとは」

「いや、そんな気はしてきたぜ。お前って、半分神様じゃん」


 医者から「双子だ」と聞かされたとき、運命を感じた。

 それは、緋奈子も同じだったという。


 魔王に取り込まれた者は、普通に死ねない。どこか、得体のしれないトコロをさまよう。


 だがそれは、生まれ変わるかもしれないという可能性もはらんでいた。


 オレたちは、その可能性を信じたまで。


「今度は幸せになろうぜ。耀、キリカ」


 オレは、二人のほっぺに指を当てる。

 二人が、指を握ってきた。


                             (完)

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オカルト刑事《デカ》 ~スラッシャーと化したヘラギャル VS 百人の退魔師~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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